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ネット駆使し宿泊旅行拡大を 全旅連・佐藤信幸会長―楽天トラベル・岡武公士社長対談(1)

世界不況、新型インフルエンザ騒動と旅行業界を直撃する様々な問題。こうした環境下で国内宿泊旅行を盛り上げるにはどうすればいいのか。全旅連の佐藤信幸会長と楽天トラベルの岡武公士社長に、新しい旅館や情報発信のあり方、インターネットによる需要喚起の可能性、両者の連携などについて聞いた。

構造的な問題に直面 佐藤会長

―世界同時不況の影響はいかがでしょう。

岡武 国内旅行について言えば、それ以前から、ガソリンの値上がりで出張が減ったということがあります。ただそのときはまだ2人利用、つまり観光には影響は少なかった。出張利用の方も昨年の5月くらいには回復しつつありましたが、今度はリーマンショックで、11月くらいから減少傾向が続いています。

―予約件数で前年割れのような状況ですか。

岡武 日によっては前年を下回ることもありますが、月平均では前年割れまではいきません。2人利用も30%ずつ伸びているので十分カバーできている状況です。加えて最近では、高速道路の休日1千円乗り放題の開始、海外旅行の燃油サーチャージの大幅な減少による旅行マインドの向上が国内の出張マインドにもプラスの影響を与えたこともあって、4月の前半には回復の兆しすらありました。ところが、そこに今回の新型インフルエンザで出張利用が再び減りました。エリアによってはキャンセル率が跳ね上がるような現象が見られました。

―不況や新型インフルエンザで、なにか対策は打ったんでしょうか。

岡武 ここ数年、ネット上の予約動向は大きく変わりました。当初の間際型から、ある程度前もって予約する、リアルエージェントと同じような「普通の予約」の仕方に変わっています。それでも間際に対応できる特性は失われていませんので、新型インフルエンザで数千人のキャンセルがあった学会関係や大型テーマパークからの依頼で、ポイントをつけていただくなどして、集客のリカバリーに協力させていただいたケースはあります。

佐藤 バブルが弾けて以降、業界は平成5、6年ころから十数年マイナスを続けてきて、ようやく2年ほど前になって、戦後最長と言われる好景気の恩恵を受ける旅館も増えていたようです。時間はかかるけど、少しずつよくなっていくという雰囲気でした。それが、昨年からサブプライムローンの問題や原油の高騰でマイナスに転じ、世界不況、そして新型インフルエンザではっきりと厳しさが増してきています。ただ、旅館業界にとっては経済環境だけが問題なのではありません。お客様の主流がかつての団体から個人に移行したことなど、従来のビジネスモデルが通用しなくなったという構造的な問題に直面しています。ですから、売上高といった経営の数値も、過去とは切り離して考えるべきです。いつまでも昔の数字を基準にしていると、経営に改善が生まれません。旅館業界には千年を超える歴史がありますが、今、旅館があるのは変化に対応してきたからです。21世紀とともに、まったく新しい時代が始まったと認識を改めることが重要だと思います。

地鶏に行列する時代 岡武社長

―新しい時代といえば、インターネットも昔はなかったものです。ネットエージェントは旅館の助けになっていますか。

佐藤 大きな旅館を除いて、これまでほとんどの旅館は市場に向けて自己PRができませんでした。個性的な商品を持っていても販売できなかった。しかし、ネット社会になったことで旅館の個性をはっきりと打ち出し、アピールすることができるようになりました。これは素晴らしことだと思います。

岡武 旅行会社からの送客が少ない、中小の旅館さんの「お助けマン」的な役割は果たしてきたのかなと思います。それから即時性という特徴からは、例えば大地震が起こった際などに、現場の正しい情報をネットを通じて伝えることで、市場に対して「大丈夫ですよ」といったメッセージを送ったり、「がんばれ○○地域」といったキャンペーンでお手伝いをさせていただいています。

―ネット宿泊予約は増えていますが、国民全体の宿泊旅行は減少しています。インターネットは需要喚起につながっているのでしょうか。

岡武 先日、宮崎県で聞いてきたんですが、今年のゴールデンウィークには、なにわナンバーなど遠距離の車が多かったそうです。遠くから来た彼らがなにをするかと言えば、レストランに並んで宮崎地鶏を食べる。今までにはなかった現象だそうです。それは東国原知事が自らの発言でPRしてきたからです。かつて新婚旅行のメッカであったり、多くの旅行者が宮崎県を訪れながら、宮崎地鶏がおいしいということを誰も言わなかったし、私たちも知らなかった。それは、従来型の旅行商品に組み込まれてこなかったことも理由です。それが、ネット社会では、自らがおいしいと発信できて、それを食べたいと思う人がわざわざ食べに来るわけです。自らのいいところを自ら発信できるのがインターネットの一番いいところではないでしょうか。こうしたことが、全国の様々な地域から発信されている。とても大きな需要喚起ではないでしょうか。そうした意味では、インターネットがなければ、宿泊旅行はもっと減少していたと思います。

佐藤 企画商品をつくる場合でも、昔はヒット商品をつくらなければ意味がないと考えていました。パンフレットをつくるお金も、商品をつくって世に出すまでに時間もかかります。失敗できないし、冒険もできません。ところが今は違います。たくさんつくって、そのなかからヒットしたものを中心に売ろうという考え方です。なにが売れるかを試すことができる。

―個々の旅館のHPで企画商品をたくさん並べても、見てくれる人が少なければ販売にはつながりませんね。

佐藤 ですからネットエージェントさんにお願いして販売するわけです。しかし一方で、ネットエージェント販売には難しい部分があります。例えば、楽天トラベルさんである旅館の格安プランが売れてしまうと、それがその旅館のスタンダードだと受け取られてしまうことがあります。特別につくった一番安いプランだけで目立ってしまう心配があります。多くの旅館では宿泊料金に幅がありますし、1人のプランも、10人、20人のプランも持っているはずです。きちんとした売り方を考えて掲載する必要があります。

全旅連佐藤会長楽天トラベル岡武社長

全旅連・佐藤会長(右)と、楽天トラベル・岡武社長。
国内旅行需要喚起をともに

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