IR最前線をボストンに取材① 日本進出目指すウィングループ
昨年7月、特定複合観光施設区域整備法(IR整備法)が成立した。大阪府や横浜市がIR誘致に名乗りを上げているほか、東京、和歌山、長崎などの自治体がIR誘致の検討を始めた。
大まかなスケジュールとしては、2022年前後に3カ所程度の候補地が決まり、2020年代後半に開業という流れと言われてきた。ところが昨年末に、IR施設をめぐる汚職事件が露見したことで、立憲民主党など野党4党がIR整備法を廃止する法案を通常国会に提出することを決めるなど、先行きは一転、不透明な状況だ。
昨年11月、トラベルニュースではカジノ歴30年以上、10カ国以上のカジノで遊んできた記者を、アメリカ東海岸のボストンに派遣し、開業したばかりの都市型IR「アンコール・ボストンハーバー」を取材した。ここではIRそのものに立ち返り、ボストンでも自費でチップを賭けてきた記者の渾身のリポートをお届けする。
IRはカジノだけにあらず、1つの街ができるイメージ
IRというとまず思い浮かべるのはカジノ。日本人の多くにとって身近なカジノと言えば、韓国、マカオやシンガポール、ラスベガスといったところだろうか。バカラ、ブラックジャック、スロットマシンやルーレットといった煌びやかでゴージャスな遊びのイメージがある一方で、ギャンブル依存症や治安の悪化などに対する心配をされる方も多いのではないだろうか。
たが、統合型リゾート(Integrated Resort=IR)は、その名の通りいくつかの施設を集めて「統合」し、「一体的」に運営されるリゾート施設。一般的には国際会議場・国際展示場(MICE)、宿泊設備(ホテル)、ショッピングモールなどの商業施設、スポーツや劇場、映画館といった娯楽施設とカジノ等が統合されたひとつの大きな街をイメージするとよい。
IRのメリットはまずもって国内外からの観光客の誘致。カジノだけではなく、展示会、国際会議、娯楽やショッピング等多様な楽しみを目的に大きな賑わいが期待される。多くの人が集まれば、巨額なお金が支出され、地域経済は活性化され、地方税収にも新たな財源として大きなプラスが生み出される。巨大なIR施設には多くの従業員が働き、雇用の創造も期待される。その一方でIRを構成する施設の一つであるカジノに起因した依存症・治安悪化などに対する懸念の声も無視できない。
世界には冒頭述べたアジアやアメリカなどをはじめ多くのカジノを運営する事業者(IRオペレーター)が存在し、ショッピングやカジノ、娯楽を通じて人々を楽しませるノウハウのみならず、ギャンブル依存症や治安の悪化を防ぐ施策を磨いている。
アンコール・ボストンハーバーとウィングループ
今回、訪れたのはアメリカ東海岸マサチューセッツ州ボストン近郊のIR、アンコール ボストンハーバー。
ボストンはご存知の通り、アメリカで最も古い街のひとつであり、ボストン交響楽団、ボストン美術館、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といった長い歴史を纏った文化・芸術都市であり、上原投手などが活躍したレッドソックスやバスケットのセルティックス、アイスホッケーのブルーインズ、アメフトのペイトリオッツなどスポーツの街として有名だが、カジノやIRというイメージはあまり無いのではないか。それもその筈、マサチューセッツ州で2011年にIR関連法令が整備された8年後、アンコール・ボストンハーバーはボストン近郊で初めて2019年6月にオープンしたばかり。
このIR施設はボストン市内に近いミスティック川沿いに総工費26億ドル(約2,800億円)をかけ、約2万平方メートルのカジノ、約700室のホテル、15のレストラン、高級スパ、大型会議場・宴会場を備え、約5,500人の従業員が年間約800万人の訪問者を迎える大型施設。
運営しているウィングループは2005年にラスベガスでウィン・ラスベガスをオープンして以来、ボストン以外にラスベガスに2カ所、マカオに3カ所の大型IRを擁し、約3万人の従業員を雇用、年間来場者数4,200万人を数えるIRオペレーター最大手の1社。日本進出に当たっては横浜を念頭にボストンの3~5倍の面積に約15,000人が働くひとつの「新しい街」を総工費1兆円の目安で建設したいという。つづく
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