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IR最前線をボストンに取材② 市民の支持得て開業へ

百選錬磨のウィングループでも歴史と文化の香り高いボストンでのカジノ開業には苦労したのでは。こんな疑問をウィングループで新規開発を担うウィンデベロップメント社のクリス・ゴードン社長に投げかけた。

開発を担当するウィンデベロップメント社のゴードン社長。ボストン開業までの苦労を語ってくれた

A. ウィングループではマサチューセッツ州でカジノが合法化された2011年以前から、州内のどこにどういうIRを建設するのか内部検討に着手していた。IRはカジノ以外にMICE、ホテルやエンターテイメント等を備える施設とは言え、地元市民の当初の反応は厳しかった。治安悪化やギャンブル依存症対応の他、交通渋滞への不安等も上げられた。

化学工場跡地を除染し開発、鳥、魚、人が集う「街」に

Q.どのようにしてそれらの不安や課題を克服したのか?

A. 地域融合型リゾートとして雇用や税収増等の経済的効果に加え、地域に活気と希望を生み、市民が新たなプライドを持てるような事業を目指した。

Q.具体的には?

A. マサチューセッツ州では州内を3つのエリアに分け、1エリアにつき1つのIRオペレーターを入札で選定する方式が採られた。ウィングループはボストン近郊エリアでの選定を目指し、立地の選定に着手。いくつかの候補地の中から地元自治体や関係者との協議の上、約1世紀の間、化学品を生産した工場が汚染土壌を残して閉鎖された跡地を選んだ。

人も魚も水鳥も寄り付かない不毛の場所を生命と活気に溢れ、皆が憩う場所に生まれ変わらせることに決めた。

Q. 物理的にも金銭的にも大変な作業ではなかったか?

A. 6,800万ドル(約73億円)を投じて2.9ヘクタールの敷地を浄化し、大型トラック12,000台分の汚染土壌を州外に運び出した。土壌浄化の後、約1,000本の成木と50,000本以上の低木を植えたところ、水鳥や魚類などの川辺の生態系は回復し始め、川を遡上するニシンの数は2012年と比べて約4倍に増加した。

Q. 交通渋滞の解消対策は?

A.  6,500万ドル(約70億円)以上を投資して周辺道路を整備して車によるアクセス性を向上し、交通渋滞を緩和した。また、ボストン市内との間をシャトルボート(写真)やシャトルバスでつなぐサービスも提供している。

Q. 周辺の治安やギャンブル依存症対策は?

A. 周辺の治安に関しては当施設建設前から持続的に調査を行っているが、犯罪発生率はアンコール ボストンハーバーが出来て以降は減少している。また、ギャンブル依存症に対しては米国やシンガポールにおいてカジノ開業以降の依存症等の問題を生じた人数の推移を調査しているが、その比率は減少傾向が明らかである。また、ウィングループ施設のカジノセクションでは24時間常時カウンセラーを配置し、問題を感じたゲストの相談に応じ、対処している。

ウィングループではそれぞれの国や地域におけるマネーロンダリング防止法を含む各種法令遵守や社内ガバナンスは徹底しているほか、アメリカと香港の株式市場に上場していることから財務面を含む関連情報開示を行っている。

総収益の3分の2はカジノ以外から

Q. 施設全体に占めるカジノの面積や収入面のシェアはどうか?

A. 総面積に占めるカジノの比率は7%程度、総収益の約3分の2がカジノ以外の部門で占められている。

Q. 従業員の雇用に際して留意した点は?

A. アンコール ボストンハーバーでは約450の職種、州内外から約5,500人の求人に対して倍率20倍以上13万人近い人々の応募があった。ハーバード大学よりも難関である(笑)。

コミュニティに対する長期的なコミットメントの観点から採用に当たってはこの地域出身者を優先した。我々はこの施設を地域の人々に支えられた地域に根差した文化の発信地点と位置づけ、誇りと自信を持って家族や友人を連れて来たくなるような場所とすることを目指し、開業後半年を経て実際にそうなっている。

入社後にもキャリア向上を目的とした広範なトレーニングプログラムを用意し、顧客に忘れられない体験を創出するために常に改善を目指すことに情熱を持ってもらうようにしている。その結果、従業員の定着率は業界を大きくリードしている。

Q.税収など地域経済に対する貢献は?

A. アンコール ボストンハーバーは前述の道路整備や土地の浄化に加え、地元及び周辺地域に対して15年間のライセンス期間中に6億ドル弱(約620億円)を支出するほか、カジノ税として初年度は約2億ドル(約220億円)を納め、地域の観光や教育、文化、交通インフラ等の整備に貢献する。これ以外にも個別のスポーツ施設やチーム、美術館や交響楽団等多岐に亙る既存組織とパートナーシップを組んで、地域全体の振興を図っている。

Q. 環境面の配慮はどうか?

A. ウィングループは全米の太陽光発電に取り組む企業ランキング(2018年)で第9位につけている。上位にいるのはアップル、アマゾンといった企業でウィンはIR業界で首位。ピーク時電力に占める再生可能エネルギーの割合は75%に達し、年間3.4万トンの二酸化炭素を削減したほか、約2億本のプラスチック製ストローを減らした。提供する食品のトレーサビリティにも配慮している。

Q. 最後にひとこと

A. ボストン周辺への進出は困難を伴うと予想されたが、上述のような取り組みを根気強く訴え続けたところ、50人ほどの市民がウィングループの誘致を推進する非営利団体を立ち上げて応援してくれ始めた。そのお陰もあって、最終的には市民の85%がアンコール・ボストンハーバーを支持してくれた。我々は日本でも地域コミュニティの良いパートナーとなるべく努力を惜しまないつもりだ。つづく

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