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産業観光シンポ 企業・地域内連係が課題

11/08/08

産業観光のビジネスモデルを考えるシンポジウムが7月28日、東京で開かれた。ビジネスモデルを提示することで産業観光の持続と普及を目指そうろするもので、全国産業観光推進協議会が主催した。

産業観光という言葉が観光業界内に定着して約10年。丁野朗・日本観光振興協会常務理事はこの10年で産業観光は企業が「無料で提供するもの」から、「収益を上げる」時代に入りつつあることを、経済産業省の調査をもとに解説した。

調査には産業観光に取り組んでいる事業所1810事業所が協力。「地域住民への理解促進やCSR(企業の社会貢献事業)」を目的にしたものが全体の4割を超えたが、産業観光で事業収益を上げている事業所も1割強あった。

なかでも食料品・飲料や繊維産業では3割弱が収益を得ていた。こうした産業分野では、工場見学後に施設内レストラン等での飲食や物販が収益につながっている。

また、収益を上げている事業所では、「既存の工場を見てもらう」から、「見てもらうための工場をつくる」といった発想の転換や、投資をすることによる収益の拡大に取り組む事業所も現れている。

一方で、売るべき商品がない重厚長大型企業では産業観光で収益を上げているのはわずか1%にとどまり、こうした分野で収益を上げるビジネスモデルの構築も課題として明確になった。

調査は今年3月に「地域経済波及性・持続性の高い産業観光事業の確立に向けて」のタイトルで公表されている。

パネルディスカッションでは、産業観光に取り組む地方自治体と民間企業の事例から産業観光のビジネスモデルの可能性を探った。また、全国産業観光推進協議会の須田寛副会長(JR東海相談役)が、収益を上げ継続性のある産業観光のビジネスモデルを提案した。

神奈川県横須賀市の吉田雄人市長は2年前に市長に当選すると、従来マイナスイメージと捉えられてきた「基地の町」のイメージの「払しょく」から、「活用」へと180度転換。「基地の町」を前面に、民間事業者が進める「軍港めぐりクルーズ」を後押しすることで、年間12万人が参加する人気ツアーに押し上げている。

米軍に提供してもらったレシピをもとに「ネイビーバーガー」を開発。発売から2年で10万食を突破する人気グルメも誕生させた。

「横須賀にしかないものを活用して、民間事業者がビジネスとして儲かる仕組みづくりを応援しています」と吉田市長。ネイビーバーガーも基地周辺でのみ販売するなど、商品価値の維持に努めている。

民間企業からは、洋食器メーカーのノリタケカンパニーリミテド(名古屋市)の鈴木幹根・経営管理本部総務部長が2001年に開園した「ノリタケの森」について説明した。

ノリタケの森は、同社が創業100周年を記念した社会貢献事業。名古屋駅から400メートルほどに立地する本社に隣接する工場跡地を整備した公園で、レストラン、ミュージアムなど一部エリア以外は無料で開放している。

年間40万人、開園から10年で来場者は400万人を超えた。住民や園児が散策に訪れるなど、すっかり地域に根づき、名古屋市から一時避難所に指定されるなど公益性も高い。

「ただ、名古屋市の中心地でもあり、税の負担や緑地の維持管理が大変なのは事実です」と鈴木総務部長。社会貢献事業としての位置づけではあるものの、企業単独の負担ではない、地域や行政が支援する仕組みづくりが課題のようだ。

こうした企業単独の取り組みについて、須田・全国産業観光推進協議会副会長は、企業間の連携や収益をプールする仕組みづくりを提案した。

年間35万人が見学に訪れるトヨタの例もあげながら、「ノリタケやトヨタのように無料で対応している場合、見せる企業と儲ける企業が別という状況が生まれます。複数の企業が連携し収益をプールできないでしょうか。企業に産業観光しようとする気持ち、心があれば、そうしたビジネスモデルは可能だと思います」。

産業観光の提唱者であり、産業観光で最も大事なことは、「心をこめて見ること」と繰り返す須田さんらしい表現で、産業観光への地域全体での取り組みに期待を示していた。

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