東北地方太平洋沖地震・「生きる希望与えたい」 旅館3団体が緊急対策で結束
東北地方太平洋沖地震で国際観光旅館連盟(国観連、佐藤義正会長)、日本観光旅館連盟(日観連、近兼孝休会長)、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会(全旅連、佐藤信幸会長)の旅館3団体が結束して対策に乗り出す。旅館ホテルで被災者を受け入れるほか、被災地の旅館ホテル従業員の緊急雇用なども計画。「国内観光の存立が問われている」(国観連・西村肇副会長)状況に立ち向かう決意だ。
大阪市内で3月14日、国観連と全旅連の役員らが集まり対策会議を開いた。当初、東京での開催を予定していたが、首都圏の交通事情などを考慮し急きょ大阪で開催した。2団体の会長から負託され、緊急対策事業の素案を固めた小原健史・前全旅連会長は「日本の旅館がどれだけできるか。未曾有の危機に立ち向かい、被災した我々仲間に生きる希望を与えたい」と述べ協力を求めた。小原さんによると、この日参加できなかった日観連については早急に近兼会長へ報告し意見を交わしたいとした。
対策事業の中で喫緊に取り組むとしたのが金融対策。金融機関の返済猶予や緊急融資、社会保険や税金などの免除、軽減を15日にも小原さんらが上京し金融庁、日本政策投資銀行などと交渉する。小原さんは「直接的に大きな被害を受けた地域だけではなく、東北6県全体の観光客が激減すると想定される」とし、国の激甚災害地指定を岩手、宮城、福島の全県規模など広範囲に指定することも要請、金融面での優遇が得られやすいようにする。また、観光業界全体がこの1年間はダメージを受けるのは間違いないとし、3月末で期限切れるセーフティーネット貸付などに関して被災していない旅館であっても期間延長を求める。さらに、被災した旅館ホテルの多くは長期の休業が予想されることから、休業期間中の失業手当の給付と90日間が上限の受給期間の延長も要望する。
14日現在、東北や関東各県で50万人以上が避難していると報じられている中、被災地周辺の旅館ホテルで10万人の被災者を受け入れる。計画では基本的に青森、岩手県の被災者は秋田県の旅館ホテルへ。宮城県の被災者は山形県内の旅館ホテルへ。福島県の被災者は新潟県と群馬県の旅館ホテルで受け入れる。今後、旅館3団体会長名で各都道府県の旅館組合理事長に「受け入れ呼びかけ文」を送付。10万人規模の受け入れ態勢を整える。被災地から受け入れ地までの移動に関しては航空会社やJRなどに要請し、被災者証明で無料や割引利用できるよう協議する。ちなみに過去、阪神淡路大震災や新潟中越地震などでは国、県から1泊2食で1人当たり5千―6500円が交付されている。
被災地の旅館ホテル従業員の緊急雇用については、すでに国観連近畿支部と全旅連九州ブロック、長野県内の温泉地などが受け入れを表明している。今後、受け入れガイドラインを作成し、社員寮や社宅の有無などの情報を開示し、接客や事務や調理など職種ごとに募集する。小原さんは、受け入れる我々も楽ではないとした上で「家を失った従業員も多い。生きる希望を与えたい」と強調した。ガイドラインの作成は国観連近畿支部青年グループが担う。
全旅連青年部の井上善博部長は、青年部のネットワークで収集している被災地の情報、義援金の取り組みについて報告した。被災地の情報は宮城、岩手県内では連絡がつながらない状況が続き、福島県では浜通りの旅館関係者が中通りに避難していることなどを把握しているが、引き続き情報収集にあたるとした。義援金は当初、青年部で集めることを予定していたが、この日の会議で「オール旅館業の義援金を青年部で一元管理する」ことが決まった。この義援金は、全国の旅館関係者から募り、使途を被災地の旅館支援に限定するもので、旅館経営者は1口1万円をメドとし、従業員は何円でも構わない。強制はしないが「未曾有の震災の特別義援金」として全国の旅館ホテルに呼びかける。
そのほか、会議では自粛ムードの蔓延を危惧する出席者が多く「自粛を自粛するよう国、県に働きかける」「観光業界は特に自粛してはいけない」などの意見が出ていた。西村副会長は「旅館、観光産業は地域経済に大きなウエイトを占めている。自粛が続くと地域から雇用もなくなってしまう」と話していた。