コロナ:フロントのアクリル板と旅館業法
全国の旅館ホテル16000施設が加盟する全旅連(全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会、東京都千代田区)事務局職員の井上明子さんから、「九州の旅館ホテルで、フロントにアクリル板を設置する動きが広がっています」という情報がメールで届いた。
コロナウイルスの飛沫感染から従業員を守ることを目的に、旅館の若手経営者で組織する、全旅連青年部九州・沖縄ブロック有志がアクリル板設置の普及に取り組んでいる。従業員の感染防止だけでなく、同じ理由で利用者にも安心感を与えることができる。
旅館ホテルはゴールデンウイーク期間中、一部の県では営業自粛要請の対象となったが、都市部を中心に、「社会生活を維持する上で必要な施設」として、むしろ営業することが求められてきた。
コロナウイルス感染対策の重点地域である、特定警戒地域の東京都も、宴会場など不特定多数の人が集まる施設を除いて、宿泊施設の営業自粛を求めていない。
コロナ禍のもと、宿泊施設が心配するのは、経営の先行きと同時に、従業員と利用者の感染防止についてだ。
ホテルが危惧した14日間待機者の駆け込み利用
旅館業法上、宿泊施設は、3つのケースを除いて宿泊を拒否できない。拒否すれば違法となる。
①宿泊しようとする者が、伝染性の疾病にかかっていると明らかに認められるとき②宿泊しようとする者が違法行為や風紀を乱す行為をするおそれがあると認められるとき③宿泊施設に余裕がないとき、その他都道府県が条例で定める事由があるとき-の3つで、条例では、宿泊名簿の記載を拒否した場合が該当するとしたケースがある。
コロナウイルス感染症の拡大に伴い宿泊施設が頭を悩ませてきたのが、①の「感染症が明らか」ではない人の宿泊の受け入れだった。
国は、コロナウイルス感染症拡大防止のための水際対策として3月以降、空港等への帰国者について、滞在した国によって14日間、自宅等で待機すること。また、当時の入国制限地域からの帰国者にPCR検査を義務付け、結果がでるまで、症状がない場合は自宅での待機を可能だとした。
ただ、同時に空港から自宅への移動に、電車、バス、タクシー、飛行機といった公共交通機関の使用自粛を求めたため、自宅が遠方にある場合、近くのホテルを利用してしまうことが考えられた。
宿泊施設が恐れたのは、待機を要請された利用者からの、従業員や他の宿泊客への感染拡大だった。宿泊施設からは、こうした懸念の声が上がり始めたが、厚生労働省は、検疫を強化し、すべての国からの来訪者に14日間の待機を義務付けた4月3日、都道府県や保健所設置市に対し、「14日間の待機要請を理由に宿泊を拒むことはできない」と通知している。
その後、新たな帰国者が少なくなったことや、自治体がコロナウイルス感染の軽症者や症状のない人が待機するホテルの確保を進めたことで、帰国者で「感染リスクの考えられる人」が、仕方なく一般のホテルを利用する心配は少なくなった。
ホテルで働く安心感、ホテルを利用する安心感
九州では福岡県が唯一、特定警戒都道府県に区分されているが、GW以降、県境をまたがない形のビジネスが再開されつつある。全旅連青年部九州ブロックでのフロントへのアクリル板設置は、利用者に安心して施設を使ってもらうための手段の1つでもある。
東京・新宿の「ホテルたてしな」でも最近、フロントにアクリル板を設置した。経営者の柳沢伸夫さんは、「ビニールの間仕切りで対応していたが、透明度が落ちたり、汚れが目立つようになったため、耐久性もあり見栄えもいい、アクリル板に切り替えました」
アクリル板は縦70センチ×横90センチ。寸法を伝え取引のある看板屋に製作を頼んだという。都内のホテル仲間でも、アクリル板で独自に間仕切りを作り、設置するホテルが増えている。
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