多様な地域らしさ守る―温泉文化を世界遺産に 全旅連が座談会
温泉文化のユネスコ無形文化遺産登録を目指す全国旅館ホテル生活衛生同業組合(全旅連)は1月31日、東京・平河町の全国旅館会館会議室で、温泉旅館を経営する青年部メンバーによる座談会を開いた。座談会はオンラインでも配信し、ユネスコ登録へ向け理解の促進を図った。
全旅連では2008年にユネスコ世界文化遺産に登録された和食と同様に、日本の温泉文化を世界でも固有の文化として最短で27年の登録を目指している。
福島県の会津湯野上温泉・藤龍館の女将星澪さんは、温泉のない都会から温泉旅館に嫁いだ経験から「給湯器を使わずに蛇口をひねれば温泉が出るのがカルチャーショックでした。湯野上温泉は毎分3千㍑の温泉が湧出し自宅にひいている家も多い。温泉がある土地のありがたさを日々感じています。旅館では規格外のりんごや菖蒲、柚子を湯に浮かべることもあります。お客様には入浴で季節も感じてほしい」。
また、元全旅連青年部長で岡山県・奥津温泉の奥津荘社長の鈴木治彦さんは「奥津温泉には、足踏み洗濯の風習があります。アルカリ性が強い温泉で汚れがよく落ちます。温泉が生活の一部であり、貴重な温泉文化だと思っています。今でも3人の高齢者が早朝から河原で足踏み洗濯をしています。こうした風習をどう継承するかが大きなテーマだと思っています」とユネスコ登録が地域特有の温泉文化の継承につながると期待した。
同じく元全旅連青年部長で、兵庫県城崎温泉の西村屋社長の西村総一郎さんは城崎温泉について「1925年に北但大震災で街が壊滅した時、湯が湧き続け、子どもの声が続く限り街は復活できると、まず外湯を再建しました。今は7つ外湯があり、旅館が客を外湯めぐりで街に出すことで商店も継続できる。外湯を守り、共存共栄という街のアイデンティティを継承するのが大事だと思っています」と独特の外湯文化について話した。
座談会の進行役を務めた温泉ルポライターの山崎まゆみさんは「日本の温泉文化がユネスコに登録されれば、世界からの注目も高まり、温泉を目的にした訪日客が多くなるはずです。ただ、温泉地の人は温泉があることを当たり前と思って、固有で多様な文化だと意識していません。地域ごとに温泉の歴史を掘り起こし、海外への発信にも力を入れてほしい」と期待した。
海外発信やユネスコ登録について、星さんは「私の地域に訪日旅行者は多くありません。訪日旅行者の地方誘客にもつながるようサステナブルな温泉利用や、温泉文化そのものがSDGsであることを世界に発信したい。宿単位では難しいので、全国の温泉地や温泉施設が手を取り合って発信しましょう」と提案。
鈴木さんは「登録は業界だけでなく国が盛り上がっていることが大事で、国民運動にできるかかがポイント」、西村さんは「地方は人口減少が喫緊の課題です。温泉は地方にあるので、日本全体を支えるキーになり得ます。登録を果たして世界中に温泉文化の価値を伝え、持続可能な地域社会を確かなものにしていきたい」などと話した。
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