旅館とは何か―定義を考える 温泉まちづくり研究会で提起
温泉地が抱える共通課題の解決策を探り、温泉地の活性化を目指す温泉まちづくり研究会(宮﨑光彦代表=愛媛県・宝荘ホテル)は1月14日、「旅館(RYOKAN)とは何か、旅館の定義について考える」をテーマとしたセミナーを東京都港区の日本交通公社(JTBF)で開いた。旅館ホテル経営者や団体や大学に所属する観光業界の有識者が登壇。旅行者の生活様式や宿泊施設の価値が時代で変化する中、旅館の現状を振り返りながら、改めて旅館とはどのような施設なのかを議論した。
日本では、宿泊施設は欧米から輸入されたホテルと伝統的な旅館に分類されてきたが、2018年の旅館業法改正で旅館・ホテル営業に統合されている。セミナーでファシリテーターを務めた同研究会共同研究者で東洋大学国際観光学部の内田彩准教授は「旅行者の生活様式が様式化し、ホテルはインバウンド対策も含めて和の文化を取り入れる事例が相次ぐなど、ホテルと旅館に当てはまらない『境界型』といえる施設も増加している。市場が多様化する中、消費者にとって分かりやすいカテゴリーが求められている」と改めて旅館が何なのかを問うた。一方、旅館を外国人が日本独自の文化に触れられる新たな文化拠点となっていることなど、他の宿泊施設と差別化されていることを挙げた。
初代観光庁長官で国連世界観光機関駐日事務所の本保芳明代表は、インバウンドの急増に比較して宿泊者全体に占める旅館の利用率が6・2%と伸びていないことについて言及。「旅館を世界に説明して価値を認めてもらわなければ、旅館の存在感が失われてしまう。施設、サービスなど旅館のあるべき姿を伝えてほしい」と、次の世代を見据えた旅館のあり方の伝達を訴えた。
同研究会顧問で日本旅館協会の桑野和泉会長(大分県・由布院玉の湯)は、旅館によるつながりに触れた。「由布院では、旅館が地域とつながり、地域を表現する場となっている。人がつながっていることが強みであり、強みを生かしながら、時代に合わせて変化していかなければならない」と話した。インバウンドについては「日本の若者も含めて我々が旅館、地域の魅力を伝えていかなければならない」と今後における旅館の役割の方向性を示した。
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時代の流れの中で旅館の再定義について語る
ミライ・リョカン委員会の相原昌一郎委員長(静岡県・修善寺温泉新井旅館)は、RYOKANを世界共通語にすることがグローバルにつながると説きながら「委員会では、旅を地域に根づく文化を体験できる宿泊施設、地域文化のショーケースであることとしてまずは定義した。旅館は文化を提供する責任がある」と述べた。今後に向けては、正しい経営の実践ができれば事業承継、新規開業などにつながる可能性を示した。
旅館を追求するイメージを持っていないと語ったのは、同研究会顧問で鶴雅グループの大西雅之社長。社員に温泉旅館であることを意識するなと伝えながら、滞在を通じて地域の魅力に触れてもらう宿を目指しているとした。新たな宿の定義として旅館とカルチャー、アドベンチャーツーリズム、ガストロノミーの組み合わせなどを挙げた。また、コロナ禍での大変さを振り返りながら「宿泊業界が夢を持って働ける業界にしなければならない。待遇改善を含めて企業が強くなるためにやるべきことを示していきたい」と語った。
同研究会共同研究者で温泉ビューティ研究家の石井宏子氏は、風呂、寝食のすべてを受け持ってくれる施設が旅館だと伝えながら「旅館にいけば帰るまで何の心配もいらない」と旅館ならではの安心感を述べた。インバウンドの誘客に向けては「日本独自の泊まり方や文化に触れてもらうことがさらなる利用につながる」と強調。また、旅館を守るためにも、持続的なものにするためにもインバウンド利用者増加の必要性を説いた。
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