「パンツを脱いだあの日から」 日本社会に裸一貫で飛び込むバングラデシュ人の物語出版講演会
「パンツを脱いだあの日から―日本という国で生きる」(ごま書房新社)というユニークなタイトルの本の出版記念講演会が5月下旬、大阪市天王寺区の大阪国際交流センターで開かれた。著者のマホムッド・ジャケルさんが講演したほか、ジャケルさんが執筆するきっかけとなったゆかりの人たちとの対談などが行われた。
ジャケルさんの講演は、銃声や砲弾が飛び交う音で始まった。内戦状態が続くジャケルさんの母国、バングラデシュの日常的な音。その音量が徐々に絞られて「幸せを捕まえるために日本に来ました」。ジャケルさんはそう語り始めた。
バングラデシュの独立前夜に生まれた。苦労を重ねた。ドラマ「おしん」で母親が冬の川に浸かって堕胎しようとするシーンを見て故郷の村の凄惨さを重ね合わせ涙を流した。そして1994年に来日し書名のタイトルになった体験をする。
初めて訪れた銭湯。バングラデシュでは男性でも人前で裸になることはない。パンツを脱げなかった。番台のおばちゃんにとがめられた。「パンツを脱ぎなさい」。意を決してパンツを脱ぎ、湯船に浸かりシャワーを頭からかぶった。スッキリした。生まれ変わった。缶ビールを買って「私を受け入れたまえ」と日本に乾杯した。
居酒屋の洗い場でバイトした。皿がどんどんたまり、誤って指を切ってしまう。でも店長は罵声を浴びせ続け、泣きながら母国語で哀歌を口ずさみながら何とか乗り越えた。閉店後、店長が「お疲れ」と一言、ビールを注いでくれた…。
ジャケルさんの講演は異国での不条理な体験も少なくなかった。会場で鼻をすする音が聞こえたりした。だけど、それは絶望的な哀しさではない。講演後、ジャケルさんが読み上げる日記を文字化した西亀真さんが盲導犬のシェルを撫でながらこう話した。「命とはそのものに与えられた時間です。私は誰よりも先にジャケルさんのものがたりを体験しました。いつも一所懸命、あきらめない」。その文章を編集した甲田智之さんは「ジャケルさんのものがたりは一貫して愛がある。相手を決して悪く言わない。私もジャケルさんから学ばせてもらった」。
2人の話を聞いてジャケルさんは「すべてが奇跡。亀さんから夢のような贈り物をもらい、ボディは亀さん、命は甲田さんに与えられたのがこの本です。夢は、この本が映画になること。何でも手に入る日本に感謝し、日本とバングラデシュの皆さんに幸せを、地球に平和が訪れますように」と紡いだ。
ジャケルさんは現在会社員として働く傍ら、母国の留学生を支援するために東奔西走する。来賓の後藤圭二・吹田市長は「ジャケルさんはいかに愛が必要か、極限の人生経験から伝えたかったに違いありません。私たちは、小さな幸せを当たり前ではなく、もっと大切に感じなければなりませんね」。
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