否定も批評もない読み聞かせ えほん寺ピー/須磨寺で「心の処方箋」
大人に絵本を読み聞かせ、感じたことをそれぞれ発表する「えほん寺ピーいのちのまつり2」というイベントが10月8日、神戸市須磨区の須磨寺で行われた。絵本セラピストの岡田達信さん自身が選書した絵本を読み、その感想をグループ内で語り合う。感じ方は十人十色。否定や批評をせず読後感だけを共有する。そんなイベントなのだが、会場には心地良い空気と時間が流れていた―。
「余白」に気づき許容する力
えほん寺ピーいのちのまつりは、コロナ禍の間隙をついて実施した昨年に続き2回目。実行委員会の林美智世さんが岡田さんと須磨寺副住職の小池陽人さんがともに「心の処方箋」と題した著作があったことから2人を結びつけることを思いついた。2人は快諾し、さらに林さんの仲間たち(実行委員会のメンバー)が実現に向けて、須磨寺周辺の商店や市民も巻き込みながら開催につなげたのだった(トラベルニュースat2021年11月10日号既報)。
前回は約50人が参加したそうだが、今回はそれを大きく上回る100人ほどに。子ども連れの参加者もいたが、ほぼ全員が大人で、その前で岡田さんが絵本を読む。なかなかの珍百景ぶり。読む前に、絵本にまつわるお話しを岡田さんが伝え、へんな抑揚をつけることなく岡田さんは淡々とページを繰る。絵は、手元を映した映像がスクリーンに投影されている。
いくつか読んでくれた中で「おおきなけやき」(林木林・作/広野多珂子・絵/鈴木出版)という絵本があった。森の中で圧倒的な巨樹がある日倒れてしまう。倒れた後、けやきの周りには森の動物たちが集い…いつしか新しい芽吹きにつながるというお話。読後、100人それぞれがグループ内で読後に思ったことを口にする。「今まで高い所、上へ上へと思ってきた樹が、足下にこんな世界が広がっていたなんてと気づく」「自らが肥やしとなって次代につないでいくんだなぁ」などと感想を述べる。話し終わると皆で拍手。
岡田さんに話を聞いた。岡田さんは絵本セラピスト協会の代表も務める。「絵本だと対立にならないんですね。正解がないから。ほかの人の読後感を聞くと視野が広がり、仲良くなれる。絵本は人をつなぐツール。脆弱になってきた地域社会が、絵本によって活性化すればうれしいですね」。
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イベントでは、実行委員会メンバーの西元有紀さんの進行で、岡田さんと小池さんによる「心の処方箋」と題した対談も行われた。
小池さんが強調したのは、絵本には「余白」があるということ。もともと想像の世界で答えがない世界だという。岡田さんも、感想というと作者は何が言いたいとか考えてしまうと指摘し、それが分からないと理解できないと切り捨ててしまうと指摘。西元さんは、結果ではなくプロセスを描く絵本を通じて「心の余白に触れられれば」とした。
さらに、小池さんは「ネガティブ・ケイパビリティ」という言葉(消極的能力・消極的受容力など、答えの出ない事態に耐える力とも言われている)を紹介し、正しさへの依存から脱却し「宙ぶらりん耐える能力」を身につけるチャンスが絵本にはあると伝えた。
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