観光をデザインする 京都嵯峨芸術大学・シンポ
京都市右京区の京都嵯峨芸術大学は6月13日、シンポジウム「デザイン力による観光立国の形成」を開いた。日本観光協会が毎年行っている観光ポスターコンクールの入賞作品を学内に展示したほか、地域の魅力をデザインの力によって伝達していく術を有識者で話し合った。約150人が出席した。
五感に訴える旅の創造
はじめに、日本エコツーリズム協会会長も務める愛知和男衆議院議員が国の観光政策について話した。その中で愛知さんは「国同士で人と人の行き来が多くなると、誤解による紛争を避けることができます。政治の中に観光の重要度はますます増してきました」などと述べた。
基調講演はJTB地域交流ビジネス推進部長の加藤誠さんが「観光をデザインする」と題して、交流文化産業の創出を掲げる自社の取り組みを中心に話した。
加藤さんは、90年代までをマスプロダクトの時代とし「効率性が重視され大衆車、家電、住宅も団地がどんどん作られ、建てられました」。新しいものを次々に買う消費礼賛の時代だった。
しかし、公害やゴミ、地球温暖化の問題が顕在化してくる中で、市民の間に「環境」という基準が生まれてきた。「マスプロダクトは、品質や価格といったスペックがお客様の選択基準でした。しかし、もうスペックによる差別化は困難であり、マスプロダクトには関心が得られなくなってきたのです。そこでデザインの時代が到来します」。
加藤さんは、観光におけるデザインを「五感に訴えるシナリオづくりで旅を創造すること」と定義し、旅行会社の役割もホテルや航空券の組み合わせ=見る、食べる、聞くだけでなく「ワクワク感を創造する」とした。
ワクワク感とは「見たことがないもの(特殊なテーマのある情景)、食べたことがない味(新しい地域の味の創造)、かつてない体験、行きたくなる町から住みたくなる町になる」。その結果、旅行は目的から「手段」に、旅行会社はコーディネーターから「ビジネスパートナー」になるとした。
「私たちが目指すのはDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)です。ライフスタイルをトータルでプロデュースする会社という意味です。元気のある地域は我々にとっても商材であると気が付いたんですね。私たちが地域に入ることによって地域の人の心を動かすことができます。互いのシナジー効果で、地域のやる気をサポートすることができるのではないか、というわけです」
加藤さんは、旅には「文化」「経済」「教育」「健康」「交流」の力があると話し「旅の力を活用した独自性の強い地域デザインが最終的にブランドを作るのです」と強調した。
○
次いで「観光におけるデザイン分野と役割」をテーマにパネルディスカッションが行われた。
近畿運輸局企画観光部長の平嶋隆司さんは「国際、国内観光ともに伸ばしていくためには、商業ベースだけでなく文化的なすそ野を広げていくことが必要です。国家的な観光戦略をどうデザインしてくのかということと同時に、電線の地中化や浴衣で歩きやすいよう整備する地域や温泉地の空間的なデザインといったことも求められます。さらに、観光案内板やLRTなどアクセスするためのデザイン、地域の魅力を言葉で伝えるためのストーリー性のデザインも不可欠です。そして、それらを束ねる地域のコーディネーターを育てる人材育成のデザイン。そのことによって、各地域の人たちが自分たちで活性化していく。5年後、10年後に面的な広がりができていくのではないかと思います」と話した。
阪南大学国際コミュニケーション学部教授の前田弘さんは、自ら制作に関わった堺市の観光ポスターを示しながら「地域のいろんな動きをこの1枚に凝縮しています。つまり、観光ポスターとは地域デザインの象徴であり、様々な人が関わっているということに気づくべきです。制作過程の裏話も伝えながら1枚1枚渡していく。そのことによって人と人との新しい関係がデザインされ、地域デザインが広がっていくのではないでしょうか」と語った。
能登印刷の海口尚子さんは、観光ポスターコンクールで入賞した大野市の4連ポスターづくりについて紹介した。「ポスターは、外部の人に見てもらうのが前提ですが、その前に地元の人たちが再発見、誇りに感じてもらえたらうれしい。地域に愛情を持って、地域のいいところを引き出せればと心がけています」。
京都嵯峨芸術大学准教授の辻勇祐さんは「美的なセンスで伝えることも大事ですが、送り手の伝えたい内容を受け手に分かりやすいよう伝えること。伝えたい内容を具現化する視覚的な新しいデザインの方法を探る、ビジュアルコミュニケーションが必要です」とデザインを学ぶポイントを紹介した。
前出の加藤さんは「デザインは経済と文化、お客様と地域を結びつけるもの。それが観光デザインの役割ではないでしょうか」と提起した。
最後に、京都嵯峨芸術大学教授の真板昭夫さんは「人と人をつなぐこと。これが観光デザインにおけるミッションであり、使命なのでしょう」とまとめた。