フィービジネスを切り拓け JATA経営フォーラム
日本旅行業協会(JATA)は2月16日、東京・池袋のホテルメトロポリタンでJATA経営フォーラム2010を開いた。今年の総合テーマは「時流の変化を味方につけよう 自らCHANGEでCHANCEをつかめ」。特別講演は歴史家、加来耕三さんの「歴史に学び、未来を読む」。パネルディスカッションは、テーマ別に(1)手数料ビジネス終焉の時代に(2)欧州からのインバウンドの展望(3)自社の強みを生かしたビジネスとは(4)激変する環境下の人材育成―の4セッション。同時に別会場で行われた。このうち「手数料ビジネスの終焉」をテーマにしたパネルディスカッションを聞いた。
手配原価はすべてオープン 非成約でもコンサル料を収受
旅行会社が航空会社や宿泊施設などツアー素材の仕入れ先からコミッションを得る従来のビジネスモデルから、旅行商品を購入する企業や消費者から相談や手配の謝礼を得るフィービジネスへの転換のポイントを、すでにフィービジネスを実践している旅行会社から聞いた。
大手旅行会社などで働いた経験のある井上ゆき子さんは、3年前、京都市に旅行会社「チェルカトラベル」を設立した。オフィスは中京区で染色を営む実家の2階。町屋のオフィスだ。
ポリシーは女性のための旅行会社。主に海外旅行と京都旅行に関する相談と、旅行手配に対するフィーを収益にしている。顧客は30―60代の女性が多い。
訪れた女性客の旅行相談に応じ、成約した場合、手配価格合計の10%を購入者から受け取る。手配価格は原価ですべて公開する。成約しない場合は1時間あたり3150円の相談料をもらう。旅行手配の成約率は7割以上に上るという。
井上さんは「女性は妄想から旅に出る。でも、面倒臭がりだから計画づくりは苦手。私がしているのは妄想をリアルに近づけるお手伝い」と話す。そのため女性のための旅セミナーを行うなど、あらかじめツアーをつくるより、相談に力を入れる。
町屋の1階では雑貨を販売する。雑貨から2階オフィスへの誘導もしているが、主な集客ツールはブログだ。ブログには旅への思い、したい旅、してきた旅を語る。アクセスが増え、ブログを書いている人に旅を相談したい人が増える。取材が来て、また、アクセスが増え、相談に訪れる客が増える。
フィーを支払うことに対する理解は、一般的には低い。しかし、チェルカトラベルの客は好意的だ。旅行に行けない環境にいながら、フィーを支払い相談だけに来るリピーターもいる。旅への妄想を買いに来るのかもしれない。
橋本亮一さんは日本旅行を退社後、2003年、兵庫県芦屋市に旅行会社「ブルーム・アンド・グロウ」を設立した。主に海外個人旅行の相談を受け、手配・販売する。
店舗はサロン型。ホームページには「芦屋の高台にある白亜の一軒家」と書かれている。奥さんが運営するフラワーショップが併設されている。ウオークインで旅行相談に訪れる人はゼロ。集客は口コミとパブリシティだという。
主に30―50代の女性が顧客。家族を代表して相談に訪れる人が多い。相談は1件当たり平均1時間半から2時間。やはり手配原価はすべてオープンにし、成約した場合は総額の15%のフィーを購入者から受け取っている。成約しなかった場合は相談料として、30分2100円を受け取る。
橋本さんは、原価を明らかにする理由を「私はお客さまの代理者だから」と話していた。輸送機関や宿泊施設の代理店から消費者の代理店への転換を、フィービジネスは明確にする。客の代理になると店舗も集客法もずいぶんと変わってくる。