安心して旅できる日本に 国際医療サービスシンポジウム
今後も続伸が期待される訪日外国人の増加を見越して、大阪の医療の国際化を考える「国際医療サービスシンポジウム」が2月9日、大阪市北区のホテルエルセラーン大阪で開かれた。医療関係者や旅行会社などから約200人が参加し、国際医療推進への課題と方向性を考えた。
横たわる「言語・文化・制度」の壁 大阪の国際医療推進を考える
大阪府と大阪市、大阪観光コンベンション協会がつくる同シンポジウム実行委員会が初めて開催。インバウンドに加え、外国人居住者も増えていることから、医療健診ツアーや外国人患者の受入体制、医療通訳など様々な視点で現状を把握し、医療の国際化を考えようと企画した。
関西医科大学教授の西山利正さんは観光庁の「インバウンド医療観光に関する研究会」のメンバー。この日は訪日外国人が安心して受けられる医療サービスと医療健診ツアーについて論じた。
西山さんは国際医療推進の課題として、まず医療インフラの整備を挙げる。外国人医療には外国語対応や文化の違い、医療保険制度の違いなどの問題が大きな壁となっており、「例えば、スムーズに受診できる『トラベルクリニック』などを関係省庁の連携で整備すべき」と指摘。さらに、言語や文化の違いに対応できる医療通訳の育成やスキルアップへの取り組みの重要性を訴えた。
また、インバウンド拡大の1つの手段として期待されるメディカルツーリズムの将来性も分析。高度先進医療やガン治療、インプラント、美容外科、健診、化粧品・薬剤購入など多岐にわたる分野だが、西山さんは、健診分野について中国は大きな市場と見る。
「中国でも予防医療への意識が芽生え、設備は揃ってきたので数年で追いつかれるかも。しかし技術は日本が高い。富裕層向けに旅行と健診のパッケージを提案し、活路を見出したい。それこそが、成功へのカギ」
しかし、医療観光は日本の国際観光のランドマーク的存在になりうるが、収益的に期待するものではないとも指摘。文化や保険制度の違いなど課題を挙げながら「メスを用いない『低リスク低コスト領域』から推進していくのが現実的だろう」とまとめた。
続いて大阪府医師会理事の高井康之さんが、営利目的での医療ツーリズムの行き過ぎた推進は日本独自の医療保険制度に悪影響を及ぼすと警鐘を鳴らした。大阪府歯科医師会理事の河村達也さんは、歯科においては、長期にわたるインプラントなど期間の問題や通訳、情報提供など整備項目が多く、「現時点では実施困難」と報告した。
実際に外国人医療に先進的に取り組んでいる大阪府泉佐野市のりんくう総合医療センター健康管理センター長の南谷かおりさんは、その現状を紹介。同センターでは2006年に国際外来を開設し、医療通訳者約60人採用したほか、スタッフには営業研修、通訳者には医療知識教育を施すなど受入体制の整備を図っている。そんな同センターの南谷さんも「言語、文化、制度が推進への大きな壁」と語る。
「医療用語や慣習を直訳すると通じない」「宗教上の問題や国ごとの治療方針の違い」「旅行保険は大半が立て替え払いで問題が生じる」などの例を挙げながら、外国人医療の難しさの実態を伝え、壁を乗り越える取り組みの重要性を訴えた。