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旅行業の使命とデザインの意義 日観協・ツーリズムセミナー

日本観光振興協会はこのほど、大阪市中央区のJTBビルでツーリズムセミナーを開いた。ツーリズム産業従事者向けに、統合前の日本ツーリズム産業団体連合会(TIJ)時代から定期開催しているもので、大阪での開催は初めて。舩山龍二副会長と、JR九州の「つばめ」などを手がけたデザイナーの水戸岡鋭治さんが講演した。

舩山さん「これからはアジアの時代」

舩山さんは「ツーリズム産業の使命と役割」と題し、パスポート取得率が減少している現状やインバウンドの市場拡大に伴う旅行業法の不備に対して警鐘を鳴らした。これまで観光が脚光を浴びたのは明治初期の開国時、第2次世界大戦後、そして今と「困ったときに出てくるのが観光」と舩山さん。「今回こそ、3度目の正直にしなければならない」と強調した。

その中で、舩山さんは「経済成長と同じく発展」してきた観光だが、国内マーケットにおいて経済の成熟とともに衰退に向かっているという。それは泊数、旅行回数が減り夏休みやGWに実施日が集中していることと、パスポート所持者の減少に顕著だと指摘する。「パスポートはこの5年間で500万人も所持者が減っています。大阪府だけでも50万人です」。成人式にパスポートを配るなどの対策が必要ではないかと話した。

また、インバウンドについて「これからはアジアの時代です。アジア大交流ゾーンとして、日中韓の偉大なる安全保障にもつながります」とし、市場拡大に伴って「東名大がイニシアチブをとってきましたが、地域主体に切り替えなければなりません。国が進める第3種旅行業の緩和はその流れで、大手旅行会社は警告として受け止めるべきです」。

加えて、民族系の非登録インバウンド業者や国外のアウトバウンド業者が、旅行業法の範囲に及ばないことを危惧し「安かろう悪かろうが横行する。メスを入れなければ」と話し、ツーリズム産業界が国に働きかけるべきだと語った。

水戸岡さん「国民に豊かな旅を」

水戸岡さんは「デザインは公共のために」と題して講演した。「国家のもっとも大事なことは国民に豊かな旅をさせること。豊かな旅は美しい国、心地よい国でないとできません。そういう発想で動けばいい」。自身が手がけるデザインの考えを端的にそう話した。

今年3月にオープンしたJR大分駅の新駅舎。水戸岡さんはコンコースに汽車スタイルのEVを走らせることを思いつく。安全性などを危惧し反対の声は大きかったが、駅が変わりまちも変わるかもしれないと強行する。すると1日800人が乗る人気を集め、コンコースから駅前広場、そして商店街へと運行ルートが延びていった。

「新しいことを始めるのは面倒なことです。だけど一歩踏み出す勇気の積み重ねがオンリーワンになり、全国から世界から人が来ることにつながるのです」。

水戸岡さんの仕事は異論、反対がつきもの。船体が真っ黒なJR九州の高速船ビートル。10人が10人反対したそうだが、JR九州の唐池恒二社長の「皆が反対するといいんだよ。みんな、まともだから」の一言で決まった。特急つばめの乗務員の制服は100%ウールにした。「耐用年数が短くなると反対されたが、逆でした。モノに人の心が入った。大切に着てくれています」。それを水戸岡さんは「製品ではなく商品をつくる」ことだという。だから「市場調査はしない。意識を変えるんです。デザインではなく、世の中が求めているものを明確にする」。

「観光地をつくることとは、どこにもないトイレを作ること。道具すべてをちゃんとしたら観光地になります。既製品ではできるわけがない。感動を与えなければ意味がないのです」。

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