スポーツ観光元年2012(2) 地域の"やる気"が市場を創造
スポーツ観光の推進には、その舞台となる「地域」の"やる気"の喚起と理解が前提となる。観光庁が昨年末から2月にかけて、初級―上級編を開いた「スポーツ観光人材育成研修」。その初級編は、我が地元でのスポーツ観光の実現性を半信半疑に感じている地域に、スポーツ観光とは何か、また可能性を知ってもらい、普及につなげようと全国で開催した。
地域資源をスポーツで新たに輝かせる 奈良県の事例
近畿会場には自治体や旅行会社などから約40人が参加。座談会では実際に取り組みを進める地域・団体を招き、近畿地方におけるスポーツ観光の可能性を考えた。
昨年末に4回目となる「奈良マラソン」を開いた奈良県。ほかにも若草山でのヒルクライムなどスポーツイベント開催に積極的だ。
県くらし創造部スポーツ振興課の吉田晴行さんは、その趣旨について「健康長寿県として『誰でもスポーツできる県』にしようというのが目的」としながら「旅行会社との関係を強化するなど観光部局と連携して観光にもつなげようという視点でも動いている」と話す。
その積極性の源は、奈良中心部が持つ、古都の風情や若草山など風光明媚な景観という地域特性を「するスポーツ」で新たに生かせそうという観点から。実際に奈良マラソンはすぐに定員を上回る参加希望を集め、ランナーからの評判も上々だという。
地元の協力、参加者の満足度は都市マラソン開催に欠かせないが、1回目はコース取りのクレーム対応など苦労も多く、地元からも懐疑的な声が聞かれたという。しかし2回目以降、参加者や住民が気持ちよく関われるようにと事前周知から徹底するなど対応を強化し回を重ねるたびに反応が変わってきたそうだ。
経済効果についても「試算はしていないが、全国から参加者が集まったことが大きかった」。さらに「2回目からはマップを配布するなど運営面でもサポートが充実。参加者はマラソン以外のことも求めるので観光ツールの重要性に気付いた」と経験から得られることも大きいと話す。
この日スポーツ観光の概念と現状を解説した、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の原田宗彦さんは「お金を使わず、地域の資源を使っているところがすばらしい」と評価する。地域にスポーツ観光を根付かせる上での好例といえるだろう。
観光庁スポーツ観光推進室の坪田知広室長は、スポーツ観光の地域に対するメリットの1つに「リピーター化」を挙げた。「地元との交流が心に残るという旅の魅力を大きく有するのがスポーツツーリズムの良さ。リピーター化につながる大きな要因となる」とし「関西は都市、自然など環境も適しており、すべての市町村に可能性がある」と参画を呼びかける。
地域におけるスポーツ観光市場創造の土台作りも進み始めている。地域での推進組織といえるスポーツコミッションが昨年10月、国内で初めてさいたま市に誕生。イベントのコーディネートから観光メニューの提案まで一手に担う。関西でも昨年7月、「スポーツコミッション関西」の準備委員会が立ち上がり、4月には正式に発足予定。スポーツで産業を活性化させようという動きが本格化してきた。(つづく)