スポーツ観光元年2012(4) 手づくり感に笑顔輝く久米島
積極的にスポーツツーリズムを進める沖縄県。取り組みが盛んだが、今回は「するスポーツ」によるまちおこしの実践例として、小さな島のイベントをレポートしたい。
「シュガーライド」初開催 サイクリングで伝える島の魅力
舞台は久米島。沖縄本島から飛行機で35分、フェリーで4時間。温暖な気候と自然環境が人気のリゾート地で、離島ならではのゆったりとした空気が流れている。
3月3―4日に開催された「シュガーライド久米島」。久米島ではプロ野球・東北楽天のキャンプやマラソン、ウオーキングなどスポーツイベントによる地域活性化に取り組んできたが、サイクリングは初めて。3月の観光需要喚起はもちろん、「海も緑も坂もある、サイクリングの良さを全部楽しめる島」と自負する特性を活かそうとの地域の思いがあった。
大会は久米島町、町観光協会と日本旅行が実行委員会を組織し、県と沖縄観光コンベンションビューローなどが後援。観光入込が近年横ばいで危機感を募らせる地元と、MICEの一分野としてまちづくり事業に取り組もうとする日本旅行がタッグを組み、試行錯誤を経て開催にこぎつけた。
大会参加者は約160人。沖縄県内と県外比率は半々で、東京や愛知、福岡などからも参加。日本旅行が大手スポーツジムと連携して設定したモニターツアーが予想以上の人気を集め、まずまずの参加数が集まった。
コースは島1周40キロで、3周、2周と、初心者、ファミリー向けの約1周の4種。スタートして海岸線を抜ければ、つづら折りの急坂が続くアーラ林道が待ち受ける。沖縄特有の古い町並みが残る住宅街を走り抜け、子宝祈願の景勝地・ミーフガーで休憩。このあたりから長く続く坂道を登りきると、絶好のビュースポット・比屋定バンタにたどりつく。あとはゴール地点を目指すのみ。
このコースは参加者にも好評。福岡から参加した20代の男性が「林道を抜けるとサトウキビ畑の向こうに青く澄んだ海がドーンと出てくる。とにかく景観がすばらしい」と話せば、石垣島から参加した50代の男性は「景色もだが大会の雰囲気がいい。初めての人でも溶け込めるアットホーム感があたたかい」。自転車雑誌の編集者も「景観の美しさは特筆もの。特に初心者には最適のコースかも」と評価する。坂の厳しさを訴える声が多かったが、スタート前、サイクリング中、ゴールした後、坂越えのつらさを除けば皆が常に笑顔だったのが印象的だった。
大会は手作り感にあふれていた。エイドステーションではサーターアンダギーなど特産品が振る舞われ、サイクリングイベントには珍しく昼食も用意。ロードバイクをもたない初心者に対しては地元の自転車店が貸し出すなど、気軽に参加できる仕組みもあった。
しかし、課題もある。初開催でもあり、事前の周知期間が短かったためで、沿道の応援も島からの参加者もなし。大田治雄・久米島町観光協会長は「島民に浸透させる必要性は強く感じている。まずは知ってもらい、来年はもっと盛り上げたい」と力を込める。
滞在型観光につなげるという意味でも課題は残る。大半の参加者が次の日には帰路に着き、サブイベントとして設定されたヒルクライムやガイドツアーへの参加も少なかった。大会に参加することで地域の魅力を知ってもらい、リピーター創出につなげるというのは目的通りとしても、地域に経済効果をもたらす、観光とスポーツイベントを組み合わせる手法の確立も急務だろう。
改善点は残るが今回は1回目。関係者の目標は「続けること」で一致する。参加者の安全を徹底し、サイクリングと久米島を楽しんでもらうことを徹底した。大会終了後には、平良朝幸・久米島町長が「素晴らしいコースだと参加者にお墨付きをいただいた」と手ごたえを示し、大田観光協会長は「来年は参加者倍増を目指し、全国的にPRする」と早くも次の開催に目を向けた。
大会運営に携わった日本旅行営業企画本部MICE営業部の石垣隆久部長は「地域に入り込んで取り組んできたが、町、観光関係者、商店など皆が1つになって協力体制を敷けるのが久米島の良さ。参加者、運営側みんなの笑顔に成功を感じたし、改善点をブラッシュアップして来年もやります」と強調した。
小さな島と旅行会社が仕掛けたスポーツによるまちおこし。島の持つ素材をそのまま出し、サイクリングを媒介にそのまま感じてもらうだけという素朴なものだ。参加者が話していた「"作られた感じ"がしない大会」というのは実感のこもった褒め言葉だろう。
大会終了後に開かれたふれあいパーティーでは、沖縄民謡「カチャーシー」で大団円。参加者の笑顔から満足度の高さが見て取れた。