スポーツ観光元年2012(5) 実務者レベルで成功例を
スポーツ観光の舞台「地域」は機運の高まりを見せるが、その舞台と消費者をつなぐ「旅行会社」の動きはどうだろうか。商品化が本格化したとは言い難い現状のなか、中小旅行会社が集い、あるスポーツのツーリズム振興に動き出した。
中小旅行会社で委員会 全日本ノルディック・ウォーク連盟
そのスポーツはノルディックウオーク(以下NW)。2本のポールを使い"4足歩行"することが特徴で、誰でも楽しめるスポーツとして近年普及が目覚ましい。
NW普及に努める全日本ノルディック・ウォーク連盟内に「スポーツ・ツーリズム推進委員会」が設立された。関西の旅行会社と学識者らが参画し、NWを振興しツーリズムの流れに乗せようというもの。3月9日には大阪で初会合が開かれ、意識の共有が図られた。
活動の土台となるNW普及への取り組みは活発だ。同連盟は全国のNWの大会を統一的につなぐ「ジャパンノルディックウォーク・プレミアリーグ」を展開し、ウオーキング大会がある全国の自治体にNWの部の新設も呼びかけている。同連盟本部長の木村健二さんは全国規模で「誰にでもできる」ということで「観光庁のスポーツツーリズム推進の目的にも合致する。公認にしてもらいたい」と意気込みを話す。
NWのツーリズム振興については、同委員会委員長の久保田正義さん(ラウンドトリップ)が「NWはスポーツ、メディカル、エコ、グリーンと多様なツーリズムに通じる。歩けば地域の魅力に触れられ、着地型にもつながる。スポーツツーリズムから各分野へ展開できる流れを構築したい」と展望を語った。
さらに、同委員会は幅広い視野でスポーツツーリズムを見据える。スポーツツーリズム推進の場において、これまで見かけなかった"実務者レベル"の組織として「スポーツツーリズムのあるべき姿」の構築という使命も担おうというのだ。
約20年前からスポーツツーリズムに取り組む久保田さんは「旅行会社は今だけを考え安売りで、スポーツイベントを次の年にはなくなる売り方をしている。観光庁が掲げる『持続可能』と合わない。行政はやる気だが旅行会社が足かせになっている」とスポーツツーリズムが進展しない理由を分析し、現状を嘆く。
観光庁に対しても「実務者から見たら現場の人間を大枠づくりに組み込まない今の動きは疑問。バックアップに徹してもらいたい」と注文をつける。確かに商品造成という観点では取り組みが進んでいるとは言い難く、スポーツツーリズム普及は一息という印象だ。びわこ成蹊スポーツ大学助教の吉倉秀和さんも「手詰まり感」と現状を分析し「実務レベルでの成功例が求められている段階。成功例を示せば、国もついてくるはず」と指摘する。
久保田さんは「私たちがNWで成功モデルをつくり、安売り競争でない(価値で勝負する)本来の旅行会社のスタイルを取り戻したい」とスポーツツーリズムだけでなく旅行業界全体の振興も視野に入れる。同委員会は今後、50社規模の団体へと組織力強化を目指す。
スポーツの振興から旅行会社の振興へ。実務者たちはスポーツツーリズム推進の今と未来をより現実的に見据えている。