旅館に注目するブライダル業界
ここ数年、ブライダル業界では「和」がブーム。専門雑誌を見ても、婚礼衣裳のバリエーションを紹介するにとどまらず、いかに「和」をお洒落に取り入れるか、という視点で特集が組まれることが増えている。
エディター・田路貴代さんレポート
背景にはブライダルそのものの多様化、適齢期すら曖昧になった現代人が「人とは違うこと」「自分らしさ」を求めている現状が伺える。
いわゆる、自分を確立した大人世代の花嫁に、魅力的と思わせるウエディングとは何か、だ。たどり着いたのは、欧米スタイルでもなく純和風でもない「和婚」という新スタイル。
お料理はもちろん、衣裳や演出すべてに洗練さが求められ、舞台となる会場選びは特に重要ポイント。ありきたりの結婚式場では叶えられない上質感、本物を知る世代にふさわしい場所として、注目を集めているのが旅館とのコラボレーションだ。
先日もとある旅館でロケーションを行ったばかり。それは、神前式でもなく仏前式でもない。バージンロードに見立てた毛氈を中庭に敷いて、格式高い黒引き振袖を纏った厳かな人前式をアピールするもの。
歴史を愛でる和の空間には、東洋のエッセンスを加えたオリエンタルなテーブルセッティングを設えて、お色直しもあえて白ドレスでコーディネートするなど、ビジュアル要素もトレンド感にあふれたハイクラスなウエディングを提案。
専門雑誌の読者の反響も上々だと聞く。旅館を借り切る贅沢感はもとより、披露宴の後に温泉を楽しんで、浴衣のまま朝までゆっくり過ごしてもらうなど、他では味わえないサプライズに満足しないものはいない。それは、お披露目からおもてなしへ、結婚式のあり方そのものの変化とも相通ずる。
旅館にとってもメリットは大きい。その後はきっと周年ごとの記念日を祝う場所になるだろうし、ゲストの中にはプライベートで訪れる人も少なくないはず。おもてなしのプロとして、大勢のゲストが集まる結婚式をプレゼンテーションの場と捉えれば、次なるビジネスチャンスを生み出すかもしれない。
館内を見渡せばそこここに、ウエディングの場所が潜んでいるはずだから。
(とうじ・たかよ=エディター、ライター)