瀬戸内海縦断航路に大型新造船―名門大洋 池田・大阪府大特認教授寄稿(2)
高速道路の無料化という政策の影響を受けて、輸送能力が下がってしまっていたため、需要の増加にすぐには対応ができずにいたフェリー業界でしたが、ちょうど船の代替期にあたって、新造船においては大型化と高性能化に大きく舵をきって変針をしたことになります。船の減価償却期間は原則15年で、15―20年で代替するのが一般的です。前船の「フェリーおおさか」は、1992年の建造で船齢がすでに23年になっていました。
機能は"動くリゾートホテル"
いずれの船も、フェリー建造ではトップメーカーである三菱重工の下関造船所で建造されました。学会の講演会では、下関造船所で両船の設計に携わったプロジェクトマネジャーの森哲也氏の話もありました。新しい画期的なフェリーにするべく、ユーザーである名門大洋フェリーの担当者と50回以上の会合をもって、お互いの意見のすり合わせに注力したといいます。「そうした緊密なコミュニケーションの中から、推進効率のよい1軸船(プロペラが1枚の船)としながら、そのプロペラの両脇に2基の小型の電気推進器を付けるというこれまでにない新しい発想の船が生まれた」と森氏。
この2基の電気推進器は国産品で、360度方向を変えることができるため、港での離着岸に当たっては真横に推力を出すことができ、タグボートの代わりになります。さらに狭水道などで操船が難しい場合には、この推進器を舵代わりにも使えて安全性が向上できるとのこと。また、船底から空気の泡を噴出して、空気のカーペットで船底を覆って摩擦抵抗を低減させるMALSという三菱製の省エネ装置もとりつけています。
内装にも大いにこだわり「名門大洋フェリーの女性社員と下関造船所の女性デザイナーが何度も相談をして、女性目線を大事にしたものに仕上げたのも大きな特徴です」と強調しました。乗用車甲板と居住甲板を同じフロアーにして車からすぐに客室に移動できるようにしたり、パウダールーム、キッズルーム、授乳室なども完備して女性客にも優しい船に仕上がったといいます。
大阪南港を夜に出港すると、ラウンジやレストランから綺麗な神戸の夜景を楽しみながらくつろぎ、そしてイルミネーションに飾られた明石海峡大橋の下を通過してから、船室でゆっくりと眠り、目覚めると九州の山々が目の前に迫っています。そんな他の交通機関にはない、ゆったりとした時間が楽しめるのが長距離フェリーの醍醐味で、「フェリーおおさかⅡ」と「フェリーきたきゅうしゅうⅡ」の姉妹船は、単に移動だけではない新しい高質な旅のかたちを乗客に提供しています。まさに動くリゾートホテルとしての機能を満載した船だと思います。