IRは新しい街の登場 米国アンコール・ボストンハーバーから(2) 開発担当のゴードン社長に聞く開業への道のり
化学工場跡地を除染、地域に根ざす
百戦錬磨のウィングループでも歴史と文化の香り高いボストンでのカジノ開業には苦労したのでは―。新規開発を担うウィンデベロップメント社のクリス・ゴードン社長に投げかけた。
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「マサチューセッツ州でカジノが合法化された以前から、州内のどこにどういうIRを建設するのか内部検討していた。IRはカジノ以外にMICEやホテル、エンターテインメントを備える施設とは言え、地元市民の当初の反応は厳しかった。治安悪化やギャンブル依存症のほか交通渋滞への不安もあげられた」
―どのように不安や課題を克服したのか?
地域融合型リゾートとして雇用や税収増の経済的効果に加え、地域に活気と希望を生み市民が新たなプライドを持てるような事業を目指した。
―具体的には?
マサチューセッツ州では州内を3つのエリアに分け、1エリアにつき1つのIRオペレーターを入札で選定する方式が採られた。我々はボストン近郊エリアでの選定を目指し、立地の選定に着手。いくつかの候補地の中から地元自治体や関係者と協議の上、化学工場が汚染土壌を残して閉鎖された跡地を選んだ。人も魚も水鳥も寄りつかない不毛の場所を生命と活気にあふれ、皆が憩う場所に生まれ変わらせることに決めた。
―物理的にも金銭的にも大変な作業では?
6800万ドル(約73億円)を投じて2・9ヘクタールの敷地を浄化し、大型トラック1万2千台分の汚染土壌を州外に運び出した。土壌浄化の後、約1千本の成木と5万本以上の低木を植えたところ、水鳥や魚類などの川辺の生態系は回復し始め、川を遡上するニシンの数は2012年と比べて約4倍に増加した。
―渋滞の解消対策は?
6500万ドル以上投資し周辺道路を整備、車によるアクセス性を向上させ交通渋滞を緩和した。ボストン市内との間をシャトルボートやシャトルバスでつなぐサービスも提供している。
―周辺の治安やギャンブル依存症対策は?
周辺の治安に関しては建設前から持続的に調査を行っているが、犯罪発生率はアンコール・ボストンハーバーができて以降は減少している。また、ギャンブル依存症に対しては米国やシンガポールでカジノ開業以降の依存症などの問題を生じた人数の推移を調査しているが、減少傾向が明らか。ウィングループ施設のカジノセクションでは24時間常時カウンセラーを配置し、問題を感じたゲストの相談に応じ対処している。
各国や地域におけるマネーロンダリング防止法を含む各種法令遵守や社内ガバナンスは徹底しているほか米国と香港の株式市場に上場していることから財務面を含む関連情報開示を行っている。
―施設全体に占めるカジノの面積や収入面のシェアはどうか?
総面積に占めるカジノの比率は7%程度、総収益の約3分の2がカジノ以外が占める。
―従業員の雇用に際して留意した点は?
アンコール・ボストンハーバーでは約450の職種、約5500人の求人に対して倍率20倍以上13万人近い応募があった。ハーバード大学よりも難関だ(笑)。
コミュニティに対する長期的なコミットメントの観点から採用にあたってはこの地域出身者を優先した。我々はこの施設を地域の人々に支えられた地域に根差した文化の発信地点と位置づけ、誇りと自信を持って家族や友人を連れて来たくなるような場所とすることを目指し開業後半年を経て実際にそうなっている。
入社後もキャリア向上を目的とした広範なトレーニングプログラムを用意し、顧客に忘れられない体験を創出するため常に改善を目指すことに情熱を持ってもらうようにしている。その結果、従業員の定着率は業界を大きくリードしている。
―税収など地域経済に対する貢献は?
道路整備や土地の浄化に加え、地元および周辺地域に対して15年間のライセンス期間中に6億ドル弱(約620億円)を支出するほか、カジノ税として初年度は約2億ドル(約220億円)を納め、地域の観光や教育、文化、交通インフラなどの整備に貢献する。これ以外にも個別のスポーツ施設やチーム、美術館や交響楽団など多岐にわたる既存組織とパートナーシップを組んで、地域全体の振興を図っている。
―環境面の配慮は?
ウィングループは全米の太陽光発電に取り組む企業ランキング(18年)で第9位につけている。上位にいるのはアップル、アマゾンといった企業でウィンはIR業界で首位。ピーク時電力に占める再生可能エネルギーの割合は75%に達し年間3・4万トンの二酸化炭素を削減したほか約2億本のプラスチック製ストローを減らした。提供する食品のトレーサビリティにも配慮している。
―最後にひとこと。
ボストン周辺への進出は困難を伴うと予想されたが、前述のような取り組みを根気強く訴え続けたところ50人ほどの市民がウィングループの誘致を推進する非営利団体を立ち上げ応援してくれ始めた。そのおかげもあり、最終的には市民の85%がアンコール・ボストンハーバーを支持してくれた。我々は日本でも地域コミュニティの良いパートナーとなるべく努力を惜しまないつもりだ。
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