【観光業界リーダー年頭所感】国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所 代表 本保芳明 氏
新年あけましておめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症による観光史上最大の危機も3年目に入りました。一部の国・地域で観光を目的とする渡航制限の緩和や世界各地におけるワクチン接種の進展により国際観光は緩やかな回復の兆しをみせたものの、新たな変異株の出現や渡航制限に地域差があるなど、依然として厳しい状況は続いています。
UNWTOは、観光の回復に向けて持続可能な観光を国家的課題にしっかりと位置付けることを提案しており、「持続可能性」は観光に取り組むに当たっては不可欠なキーワードになっています。
当事務所は、2020年7月に関連条約が発効されたことを受けて昨年7月からはUNWTO本部から職員が派遣されています。これにより、組織体制が強化され、本年もこれまで以上に国内外の関係者と連携し、「持続可能な観光」の推進を軸に据え、引き続き精力的に活動を進めてまいりたいと考えています。
昨年、当事務所においては、次の3点を主軸に事業を展開してまいりました。
1点目は、持続可能な観光の推進です。2020年に当事務所が観光庁とともに策定した「日本版持続可能な観光ガイドライン」をもとに、観光庁では全国でモデル事業を実施し持続可能な観光に向けた取り組みが進展しています。
また、当事務所は地域において持続可能な観光を推進していくための具体的ステップやプロセスを詳説した「観光を活用した持続可能な地域経営の手引き」を運輸総合研究所とともに作成しており、3月までに公表する予定です。
さらに、昨年は当事務所が所在する奈良県と連携し、県内の個別地域において、持続可能な観光への取り組みを支援するプロジェクトをスタートしました。具体的には、市町村やDMOをはじめとして、地域住民、地域の事業者、農家、地元大学など多様なメンバーを核とするワーキンググループを立ち上げ、そこでの議論などを踏まえて、観光資源の洗い出し、課題の抽出とその解決のためのエビデンスベースの持続可能な観光地づくりに向けた取り組みなどを地域と伴走しながら支援してまいります。
持続可能な観光の推進は、様々な課題を抱える地域が実効性のある地域経営を行っていくにあたって不可欠なものであり、今後も地域との連携を図りながら力を入れて推進してまいりたいと考えています。
2点目は観光危機管理の取り組みです。コロナ禍の影響もあり、観光分野における危機管理の強化が喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえ、観光庁と共同で、今年度は地方自治体などにおいて、危機発生時に活用できるコミュニケーションプランを作成し、2月には実践的な観光危機管理の方策に関するシンポジウムを開催する予定です。
3点目は地域振興の手段として有効なガストロノミーツーリズムの推進です。「食」は地域に由来する歴史的・文化的背景が育んだものが多く、地域の特色を出しやすいコンテンツであり、旅の大きな楽しみです。UNWTOは、「ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」という国際会議を世界各国で開催していますが、次回はいよいよ今年6月に奈良県において開催されます。
本世界フォーラム開催を契機として、奈良県、関西、ひいては日本のガストロノミーツーリズムの多様性、先進性が世界に発信されるとともに、生産者、事業者、地域の人々をつなぎ、人々の心身の健康・幸福感を促進し、持続可能な社会の実現を目指すことを期待します。
本年も様々な事業に取り組んでまいりますので、皆様方の暖かいご支援を賜わりますようお願い申しあげて年頭のごあいさつといたします。
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