【観光業界リーダー年頭所感】国連世界観光機関(UNWTO)駐日事務所 代表 本保芳明 氏
新年あけましておめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症による観光史上最大の危機は、多くの国・地域において渡航制限が解除されたことなどにより、ようやく過ぎ去りつつあります。UNWTOでは2022年に国際観光がパンデミック前の水準の65%に回復すると見込んでおります。地域別では、ヨーロッパが世界の回復をけん引する状態が続いていますが、日本においても、昨年10月から査証なしの外国人の訪日旅行が再開されるとともに、入国者数上限が撤廃され、徐々に訪日外国人旅行者の数も回復してまいりました。本年は本格的に観光が回復する1年になることを期待しています。
日本への渡航制限の緩和とあわせて、昨年12月に、奈良県で「第7回UNWTOガストロノミーツーリズム世界フォーラム」を開催したことは、日本の国際観光の再開に向けた象徴的な出来事となりました。本フォーラムには、約30カ国から450人以上の方に現地参加いただき、オンラインでも約125カ国1千人以上の方に視聴いただきました。奈良県、関西、そして日本のガストロノミーツーリズムの多様性、先進性を世界に発信する機会となったとともに、日本はもとより世界の人々が持続可能なガストロノミーツーリズムに関するベストプラクティスを学び、新たな知見を共有する機会にもなったと確信しています。
さて、かねてより、UNWTOでは、観光の回復に向けて、持続可能な観光を国家的課題にしっかりと位置付けることを提案しており、「持続可能性」は観光に取り組むに当たって不可欠なキーワードになっています。
当事務所では、2020年に「日本版持続可能な観光ガイドライン」を観光庁とともに策定し、昨年3月には、地域において持続可能な観光を推進していくための具体的なステップやプロセスを詳説した「観光を活用した持続可能な地域経営の手引き」を運輸総合研究所とともに作成、公表しました。
そして、観光庁や当事務所が所在する奈良県と連携し、日本各地の複数の地域で、これらを活用した持続可能な観光地づくりの支援を行っています。具体的には、市町村やDMOをはじめとして、地域の住民や事業者、地元大学など多様なメンバーを核とするワーキンググループを立ち上げ、観光資源の洗い出し、課題の抽出とその解決のためのエビデンスベースの取り組みについて議論等を行い、地域と伴走しながら実践しているところです。今後も、地域と連携を図りながら、各地の取り組みの分析・評価、改善のサイクルを通じた持続可能な観光地づくりを促進してまいります。
また、今後は、こうした持続可能な観光地づくりの手法をアジア太平洋地域にも普及してまいります。まずはベトナム政府と連携し、「手引き」のベトナム語版を作成するとともに、本年2月にはベトナム・ムイネーでセミナーを実施することを予定しています。セミナーの結果を踏まえ、さらにベトナム国内の他地域で普及を図るなど、アジア太平洋地域の政府とも連携を進めてまいりたいと考えております。
あわせて、昨年から、地域における持続可能な観光に関するグッドプラクティスを収集し、その知見を共有するためのアーカイブシステムをスタートしました。まだまだ事例数は少ないですが、地域における取り組みの一助になれば幸いです。今後は、英語版のアーカイブシステムも構築し、世界に日本の取り組みを発信していく予定です。
最後になりますが、パンデミックを経験した今だからこそ、観光分野における危機管理の強化は迅速に取り組むべき課題であると考えております。観光庁とも連携し、地方自治体や観光関連事業者等の皆様に対して情報共有を行うなど、観光の強じん性の向上にも取り組んでいく予定です。
本年も様々な事業に取り組んでまいりますので、皆様方の暖かいご支援を賜わりますようお願い申しあげて年頭のごあいさつといたします。
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