【特別寄稿】「サステナブルな地域観光」のために―旅行者・観光事業者・地域住民の「三方よし」を目指す(1)
近年、「サステナビリティ」「SDGs」への意識が高まり、各業界が取り組みを強化しています。観光旅行業界においても「サステナブルツーリズム」が注目を集めています。サステナブルツーリズムのあるべき姿や実現する方法について、リクルート「じゃらんリサーチセンター」「ジョブズリサーチセンター」の最新調査データ、人材や地域を生かす取り組み事例などを交えてご紹介します。(森戸香奈子=じゃらんリサーチセンター主席研究員、宇佐川邦子=ジョブズリサーチセンターセンター長)
持続可能な観光地に必要な観点――「経済」「社会・文化」「環境」
「サステナビリティ(持続可能性)」といえば、「環境」が注目されがちですが、地域の方々にとっては「経済」「社会・文化」も大切です。
「サステナブルツーリズム」とは、地域における「経済」「社会・文化」「環境」の 3 つの観点を共存させつつ旅行者を迎え入れる、旅のあり方を指します。
観光資源が守られ、環境も守られ、それによって住民の方たちの生活を支えられる。つまり、旅行者・観光事業者・地域住民の「三方よし」の循環が理想です。
例えば「経済」については、宿泊価格を不当に安くせず、適正な価格に設定(レベニューマネジメント)し、宿を運営し続けられるようにすることが、地域の持続可能性につながるでしょう。
そして、旅行者がその地域に対し「独自性のある魅力」を感じとれるようにする必要があります。
各地域が持つ魅力を見出して、磨き込む。そして、接客の現場ではより良いおもてなしをする。それにより、旅行者がよりいっそう「行きたくなる」場所となっていくことが重要なのです。
観光の力を活用しながらサステナブル(持続可能)な地方創生を実現するためには、それぞれの観光資源を生かした「地域の魅力づくり」をしたうえ
で、その魅力を体現する「人を育てる」ことが課題となります。
地域が持つ魅力を見出して、磨き込む
地域独自の魅力を打ち出していくために、まずはコロナ禍を経た近年の観光旅行の変化をご紹介します。
近年、観光旅行は「個人化」が進んでいます。
しばらく前から、国内宿泊旅行におけるグループサイズは縮小傾向にあり、旅行の個人化の傾向が見られました。その傾向がコロナ感染拡大に伴い、一気に加速。
2021年度に実施された国内宿泊旅行のうち、「夫婦2人での旅行」が27.4%。次いで「一人旅」は20.1%と、過去最高値を記録しています。
同行人数が増えるほど、「どこに行くか」「何を食べるか」「時間が余ったら何をするか」など「自分の希望を抑えて人に合わせる」場面が増えることになります。
「自分がしたいことを我慢したくない」――そこで、旅行に求めるものが「みんなが好きな旅」から「私が好きな旅」に変化してきました。
こうして個人が自分の嗜好を追求するようになると、好きなドラマやアニメなどの舞台となった場所や著名人ゆかりの地を訪ねる「聖地巡礼」、地域独自の自然や文化を体験する「アドベンチャーツーリズム」といった目的が明確な旅が喚起が旅へ喚起しやすくなります。
この傾向は訪日外国人観光客にも見られます。リピーターが多いと言われる台湾や香港からの旅行客は、メジャーではない地域で新しい発見をする旅を望む傾向が見られます。おそらく市場規模の大きな中国からの旅行客も徐々にそうした志向性へ変わっていくと予測できます。
個人の価値観にいかに寄り添うか――観光地や宿泊施設では「量から質へ」へ意識を転換し、「高付加価値化」への挑戦が進められています。
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