嬉野市が射程するまちづくり 村上大祐市長VS山田桂一郎氏対談(5) 2030年の嬉野市/佐賀嬉野特集
リアリティのある「感幸地」 イノベーションを起こすまち
−話はガラリと変わります。2030年、お2人が思い描く近未来の嬉野市をお話しください。
村上 若い人が挑戦する場が地域全体に広がっている。アグレッシブな人たちが挑戦する意欲を持ち続け、新規参入者がどんどん増えるようなまちでありたいと思っています。その中で、いま内閣府が未来技術社会実装事業を行っていますが、自動運転の車やICT・DX企業が駅前を中心にVRモールなど最新技術を駆使して観光客にアプローチしていっていたりだとか、中山間地域の課題解決に向かうようなイノベーションを起こす場であってほしいと思います。
この先インバウンドが少しずつの回復するのであれば、地域資源を磨き上げて100カ所魅力的な場所ができていき、それが本物志向に応えられることによって、上質なお客様が世界中から来るような観光地になれば、と思います。5つ星ホテルも国際観光都市として誘致したいですし、その国際観光都市を支える人材育成の拠点も整備したい。和歌山大学のサテライト、技能実習生の日本語を研修する施設なども整備し、フロント係から全体の戦略を立てる人、農業、商工業などあらゆる現場で活躍できる多様な人材を育てたいと思います。一人一役以上をこなしながら(笑)。
山田 一人一役以上というのであれば、ぜひ市役所職員の兼業をOKにしてもらわないと人が足りません(笑)。2030年は大阪・関西万博も終わっていて、今後、インバウンドが19年度並みに戻ってくるのは24年ぐらいでしょうから、それから5、6年経っています。嬉野市以外から来る人はすべてインバウンドです。
人数ではなく、嬉野が好きで好きでたまらないという人、温泉に入って元気になるのは嬉野温泉以外にあり得ないという人たち、その人たちがさきほどの仮説では母娘。その人たちにとって理想郷になれるかどうか。嬉野温泉へ来ることによって本当に幸せになれる人たち、それを受け入れることによって嬉野市民も幸せになれるという形が一番なんです。
だから私は観光地を「感幸地」と表現しています。ここに住んで良かった、この地域に来て本当に楽しかったという人たちのために取り組みを進めるべきだと思っています。そのころには、人材育成として結果が出ているでしょうし、いろいろな相乗効果も生まれているはずです。
ICT・DX化も、我々では予想がつかないデバイスの使われ方やシステムが生まれているはずです。今ですらスマホの使い方一つにしてもまったく変わってきました。それがもっと進む。電気自動車と自動運転が進めば一番売れなくなるのは自家用車です。となると公共交通機関も進化していく。今多くの地域の課題、二次交通、案内看板の整備は自動運転、スマホが解決してくれるようになるわけです。だからこそ、理想の姿を自分たちで決めていくしかない。「2030年にこうありたい」という姿から逆算して、バックキャスティングして物事を進めていくしかありません。SDGsと一緒です。2030年がターゲットイヤーで、とりあえず指標を置いてバックキャスティングしてどうやっていくかということですね。
でも、観光はサステイナブル・デベロップメントではなく、社会が良くなるためのソーシャル・インプルーブメントでないと困ります。人口など維持管理していくのものと、より住民とお客様が幸せになるために地域をより良くするゴールを置いていくための政策提言や目標設定を決め、粛々と進めていく。その中核になるのが市長の仰っている通り人材育成というのは間違いありません。
村上 地方こそ現場ですしね。壮大に物事を描かないと、目の前の物事に対して近視眼的になりがちです。
山田 そうです、よりリアルの方が価値が高まります。もう一つやっていただきたいのは、市長に以前お話ししたようにファンクラブです。リテンション戦略の手段としてしっかりと囲い込んでいく。宮城県気仙沼市や岐阜県の下呂温泉など、ファンクラブによるデータベースマーケティングで地域とお客様と向き合って生涯的に価値を生む枠組みを立ち上げていくことです。
そうすると誰がやるのという話になるので、DMOなどが最終的に浮かび上がってきます。そこを市長の手腕でやっていただかないと、すべてが絵に描いた餅になってしまいます。
村上 そうですね。いい話だ、で誰がやるの?では何も進みません。このまちの人たちは非常にいいものを持っているし勤勉です。ただ自己評価が低いんですね。だから観光を通じてシビックプライドを高めるということも裏テーマで取り組むべきだと思っています。
山田 そういう仕組みと体制づくりをぜひ進めていただければ、と思います。
−ありがとうございました。
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