量と質で好循環 長﨑観光庁観光地域振興部長×篠原跡見女子大准教授対談(2) 観光ベースに稼ぐ仕組み
成果積み上げ“開花”の段階
篠原 DMOについてどう考えているか。
長﨑 DMOに関しては4月末の時点で301件と登録件数が順調に伸びてきており、一定の成果は上げられている。一方で、DMOの機能が十分に最大限発揮されているかどうかについてはまだまだ課題があると聞いている。地域の実情やDMOの発展状況に応じた丁寧な育成が求められている。解決手法が人材派遣なのか、経済的な支援なのかはわからないが、おそらくは“これをやればうまくいく”といった単純なものではない。
篠原 地域ごとにすべて事情が異なる。地域で一番感じるのは、観光産業全体で賃金が上がっていく仕組みができていないということ。地域全体で観光をベースにした稼ぐ仕組みが確立し産業構造が変われば、本来のDMOの役割が認知され優秀な人材も確保できる。
長﨑 高価格化のためには高付加価値化も併せて組まないと持続可能な成長モデルは築けない。最近はやりの“ステルス”値上げは観光の世界では決してあってはならないと思っている。
篠原 学生たちを観光人材として業界に送り出しているが、最初はお客様から褒められたり、感謝されたりしてやりがいを持つものの5、6年たつと他産業で働く同級生との賃金格差が浮き彫りとなったり、厳しい就業環境に気づき、結果として業界から人材が流出してしまってはお互いが不幸になる。
長﨑 やりがいの切り売りでは若い人材はどんどん去っていく。DMOは幅広い関係者が集まる枠組みであり、全体として待遇や賃金が改善する方向に導いていきたい。
―国内外の観光関係者にメッセージを。
長﨑 コロナ禍がほぼ収束し、観光庁の取り組みも新たなステージに入っている。インバウンドの数は極めて順調であり、24年に関しては過去最高の3500万人が視野に入っている。旅行消費額についても、堅調に推移している。
一方で、コロナ前と比べて都市圏への集中がますます高まっており、日本全国に好循環を行きわたらせることは喫緊の課題である。より一層観光資源を磨き上げ、さらに高付加価値化、それに対する正当な価格設定で好循環を作りだし、成果や効果を日本各地に波及していかなければならない。
観光庁としてもより地域に入り込み、運輸局など組織のフル動員をしながら地域に自信をもって取り組みをしてもらう機運を高めていきたい。
これからは、具体的な成果を積み上げていく段階に来ている。前任も含めて観光庁の関係者がこれまで注いできた努力を開花させること、それを肝に銘じて取り組んでいきたい。今後全国各地にお伺いしたいと思っている。新しい日本の観光の未来を夢見て、誇るべきわが郷土、故郷を築き上げていきましょう。
篠原 パワーあふれる長﨑部長の観光戦略のもと観光立国を推進するすべての人々が団結し、新しい日本の観光の未来を築いていきたい。
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