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道後温泉本館改築130年・保存修理後の近未来を語る 旅館経営者座談会(1) 入浴できる重文の価値

国の重要文化財に指定されている公衆浴場として全国で初めて保存修理工事が2019年から始まった愛媛県松山市の道後温泉本館。5年半の工事を経て、7月11日に全館営業が始まった。奇しくも今年は、1894年(明治27年)の本館改築から130年を迎える。これを記念して道後温泉の旅館経営者に集まっていただき、「道後温泉本館保存修理完了後のまちづくり」をテーマにした座談会を開き、現況とこれからの方向性について聞いた。

百年先見据え第4の外湯

―本館がオープンしていかがでしょうか。

新山 期待感を持ってオープン日を待ち望んでいたのですが、思ったよりもきちんと情報が伝わっていなくて、改修工事以降、バリアフリーになると思って案内している旅行会社が少なからずおられます。今回の工事は文化財としての保存修理なので、階段も浴場も以前のままです。エレベーターがついたわけでもありません。

重要文化財に指定されている浴場は全国に5つほどしかなく、その第1番目に認定されたのが道後温泉本館です。「入浴できる重要文化財」として認識していただければと思います。改築から130年経ち、その間先人たちが本館を守り今日があるわけですので、アーケード商店街の人たちと一緒になって次世代へ引き継いでいかなくてはならないと決意を新たにしているところです。

道後温泉本館

明治期の改築から130年を迎えた今年7月11日、
5年半の工事を経て全館営業が始まった「道後温泉本館」

―本館のオープンで旅館組合も参加し、新山さんが代表を務める道後温泉コンソーシアムが組成され本館、飛鳥乃湯泉、椿の湯を指定管理者として運営されていますね。

新山 今回パートタイマーを中心に新たに150人を採用し、300人体制でお客様をお迎えします。これまで飛鳥乃湯泉、椿の湯のアンケート評価は非常に高く95点以上でした。本館は新たな運営になりますが、冒頭お話ししたように「入浴できる重要文化財」であることをきちんと伝え、満足して入浴し、館内をお楽しみいただけるように努めたいと思います。全国の旅行会社や一般のお客様もその点をご理解してお越しいただけることを願っています。

新山富左衛門さん

新山富左衛門さん
道後温泉旅館協同組合相談役・
道後温泉誇れるまちづくり推進協議会
道後温泉周辺ファサード整備協定運営委員会委員長
ホテル古湧園遥

河内 今、新山さんから旅館と商店街の人たちと本館を守り次世代へという話が出ましたが、道後の魅力の一つとして商店街の存在は大きいと思っています。全国的に商店街が疲弊している中で道後の商店街はいつも多くの観光客が歩き賑わっています。旅館と商店街の力が相互扶助のようにお互いを補完しあっているのが道後温泉で、それが独特のまちの賑わいをつくり、お客様に支持されているというのは素晴らしいことではないでしょうか。

鮒田 道後の商店街は空き店舗が一店もなく、62店舗がしっかりと営業しているのも誇れることですね。

宮﨑 道後湯之町の伊佐庭如矢初代町長は、1894年に反対する住民を説得し「百年後まで他所(よそ)が真似できないものを作ってこそ」という思いから道後温泉本館を改築しました。当時のお金で13万5千円、町の予算の20年分の建設費をつぎ込んだのですが、現在のお金に換算すると40億円です。40億円の投資で130年間、道後温泉はその恩恵をこうむっているということになります。

伊佐庭初代町長のこの先進性は我々も学ぶべきだと捉え、1992年に道後温泉誇れるまちづくり推進協議会を立ち上げました。個人型に特化したまちづくりをしようと議論を重ね、まちの生活文化の高さや魅力こそが地域の市場価値を高め、観光・交流文化産業の発展の母体になるという結論にいたりました。設立から約10年間は議論先行でしたが、2000年代に入ると坊っちゃん列車の運行や足湯、道後温泉本館周辺の道路付け替え整備、ファザード整備が次々と行われ、議論していたことが見える化され地域全体の意識の高まりが推進力となって住民意識や協力度が格段に向上しました。

2006年には景観まちづくりを一層推進するため、100年後も誇りうる道後温泉を意識した「道後温泉歴史漂う景観まちづくり宣言『道後百年の“景”』」を宣言しました。

宮﨑光彦さん

宮﨑光彦さん
道後温泉旅館協同組合副理事長・道後温泉誇れるまちづくり推進協議会会長
宝荘ホテル道後御湯

奥村 2009年には、地域主導で「まちづくり協定書」に基づく景観まちづくりに取り組み「歴史漂う景観まちづくり」の観点から第3の外湯構想が提案され、2017年には聖徳太子や齊明天皇ゆかりの温泉という歴史的なコンセプトを反映した入浴施設「道後飛鳥乃湯泉」がオープンしました。

鮒田 道後飛鳥乃湯泉オープン前の2014年には、本館改築120年記念事業として「最古にして最先端」をテーマに国内外の芸術家を招いて官民一体で取り組んだ「道後オンセナート」も高い評価をいただきました。

鮒田好久さん

鮒田好久さん
道後温泉旅館協同組合副理事長
ふなや

宮﨑 これからのまちづくりや環境変化に対応するため今年3月、道後温泉2050年ビジョンをまとめました。重点プロジェクトとしてデジタル温泉都市構想の実現や道後温泉歴史ミュージアムの整備、第4の外湯「道後斎戒沐浴(どうごさいかいもくよく)」の建設、温泉浴と森林浴のマリアージュ、道後温泉歴史文化コリドール道後里山づくり、道後温泉BCP&発災時宿泊者対応計画の改定といったものを具現化し、道後温泉を未来につなげていく考えです。

(次の記事)道後温泉本館改築130年・保存修理後の近未来を語る 旅館経営者座談会(2) 宿泊80万人を維持する

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