道後温泉本館改築130年・保存修理後の近未来を語る 旅館経営者座談会(2) 宿泊80万人を維持する
最古の温泉の文化継承
―道後温泉は5軒の旅館が総額約90億円をかけて全館建て替え工事を行いました。全国でも珍しいケースですが、どう捉えていますか。
奥村 それぞれ景観に配慮した個性的な施設がそろい商品価値も上がり、多様化するお客様に、より対応できるようになったと思っています。この建て替えや景観整備、アート事業、まちづくり整備の評価で80万人の宿泊客がお越しになっています。
これまで道後温泉は1988年の瀬戸大橋、1998年の明石海峡大橋、2006年のしまなみ海道の開通により100万人から130万人がお越しになりましたが、1日当たりのキャパと、しっかりとした受入態勢が整っていなかったため宿泊客を持続することができませんでした。3橋は道後の旅館が発展する要素ではあったものの、3橋で学んだことを今後の道後の発展につなげていきたいと思います。
これから80万人の宿泊客を維持していくためには国内のお客様を大事にしながら、インバウンドのお客様に来ていただかないと維持できませんし、平準化した受け入れが必要になってきますのでインバウンド誘致の取り組みも強化していく考えです。
新山 これまでの歴史を振り返ると道後温泉は非常に運がいい温泉地だと思っています。伊佐庭という方が初代町長だったからこそ本館があるわけですし、今年本館改築130年という節目の年に改築工事が終わったのも、本来であれば工事はもっと時間がかかる予定がコロナの関係で早まったいきさつがあります。
奥村 確かに、道後温泉は運がいいです。本館が改築開業したのは1894年で、翌1895年に夏目漱石が松山中学に赴任しました。同じ年に正岡子規が日清戦争に行き病気になって帰ってきて、漱石と2人で道後温泉に入って、小説「坊っちゃん」が生まれています。詳しくは話せませんが坂の上の雲ミュージアムも運があってこそ誕生したこともあります。
河内 直接的な運ではありませんが、596年に聖徳太子が伊予温泉に来浴したと伊予風土記に書かれてあり、日本書記には639年に舒明天皇、661年に斉明天皇が行幸で道後温泉にお越しになったと記載されており、道後温泉は日本最古の温泉と言われています。そういった偉大な歴史を持っていますので、もっと活用すべきだと思っています。
今、NHK大河ドラマで源氏物語を書いた紫式部が主人公の「光る君へ」が放映されていますが、源氏物語の夕顔、空蝉の巻にも道後温泉は登場するんですよ。紫式部が来たわけではありませんが、平安朝の宮中で道後温泉のことが語られていたんです。
新山 歴史や文化的要素を多岐にわたって持っている温泉地って、なかなかないと思います。これをしっかりとデータとして残し、誰が見てもわかるようにしておくことが、我々旅館組合の組合員がやらなければならないことだと思います。デジタル温泉都市構想にはデジタルによる来訪者の利便性を向上させて、満足度につなげるという部分がありますが「日本最古の温泉」という根拠となる文献や資料の展示も重点プログラムに入っていますので、そこでしっかりと道後の文化的要素を盛り込みたいですね。
(前の記事)道後温泉本館改築130年・保存修理後の近未来を語る 旅館経営者座談会(1) 入浴できる重文の価値
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