政権交代後の宿泊業界は 佐藤義正さん(国際観光旅館連盟会長)(1)
政権交代から約2カ月、観光庁は次年度概算要求で4倍の予算を計上し、外国人旅行者の拡大目標も従来の2千万人から一気に3千万人へと引き上げて見せた。成長分野としての観光の位置づけも固まりつつある。現場の宿泊業界はどのように受け止めているのか、国際観光旅館連盟の佐藤義正会長に聞いた。
観光予算の大幅増に使命感
―まずは政権交代の感想を聞かせてください。
しっかりと民意が反映されて政権交代が起きたことは画期的だし、日本にとって喜ばしいと思います。これを契機にイギリスやアメリカのような二大政党制に移行し、ときどき民意によって政権交代が起きバランスよく政治が進められることに期待しています。
民主党政権に過度な期待を寄せているわけではありませんが、長く自民党政権が続いて、生活も経済もずっとよくならない状況が続いていました。将来の日本がよくなるという形が見えず、そこに閉塞感があった。ただ、政権は変わったけど、政治や経済が本当によくなるかどうかは、まだ見えていません。むしろ脱官僚など、いくつかの点でマニフェストが守られていないところも出てきています。逆に経済について言えば、マニフェストを全部実現しようとすれば、前政権以上に国債も発行する必要がある。いずれにしてもまだしばらく見てみないと分かりません。
―政権交代の観光への影響はどうでしょう。
期待はあります。閉塞感の大きな要因の1つは将来への不安です。これがいい方向に解消されれば、まだ家計にお金はありますし、旅行に出かけようというムードが出てくるかもしれません。国民がそうした明るい展望を抱けるような政治をしてほしいです。
―政権交代はある意味、断絶への期待で起きました。例えば無駄な公共事業といった進行しているものを止めることです。一方で、今回の観光予算の概算要求の規模は、前年度予算をベースとしない飛躍という別の断絶の仕方があることを示しました。観光業界内に元気がなくても、外から見ると、前年度4倍の予算を付けるべき成長分野に見えるんだと感じました。
同感です。今までの経験則は参考にせず、観光をこれからの経済成長の重要な戦略に据えるとすれば、このくらいの予算が必要だという判断でしょう。政権交代がなければ考えられない画期的な予算だと思いますし、こうした予算を見るにつけ、国観連の存在意義を高めなければならないという使命感も感じます。
国民運動に値する3千万人
―訪日外客3千万人の話も出ています。
この着想もすごいですね。リーマンショック以降、国際交流は減少しています。業界では多くの人が2010年の1千万人達成は無理だし、20年の2千万人についても下方修正されるのではないかと思っていたところに、逆に2千万人達成を16年に前倒しするというわけです。さらには3千万人を目標にすべきだと。非常に大胆な目標です。
―目標に成算はあるんでしょうか。
私自身はかなり野心的な目標だと見ています。ただ、こうした大胆な数値目標を、業界だけではなく国民の認識に深くくい込んだことが大きい。新政権は観光、特に外国人旅行者の受け入れに力を入れる、観光がこれからの国家戦略のなかで重要な政策であり、大事な産業だということが国民に啓発されました。国民1人ひとりが外国人旅行者を暖かく迎え入れ、もてなそうという雰囲気が醸成されれば、結果としてインバウンドの拡大を後押しすることになるでしょう。温室効果ガスの25%削減という目標も、外客3千万人も、どちらも国民運動として取り組むに値する野心的な目標に思えます。
→政権交代後の宿泊業界は 佐藤義正さん(国際観光旅館連盟会長)(2)に続く