金融機関と上手に付き合うために シリーズ「旅館ホテルの事業再生」(1-1) 立て直しは資金繰りの精査から
トラベルニュース社では、コロナ禍で厳しい経営環境に見舞われている観光業界の苦境を脱するため、事業再生の専門家とチームを結成しました。今後ウェビナーやセミナーの開催を予定しているほか、個別相談会なども行っていきます。詳細は順次発表しますが、チームメンバーのお一人、みらいホールディングス(名古屋市)の渡邉安洋さんに「金融機関との上手な付き合い方」について寄稿いただきました。今回はその第1弾。
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私は財務コンサルタントとして、経営が厳しくなった会社の立て直し、金融機関との交渉といった事業再生業務に15年間たずさわっています。銀行から、あの会社一度見てもらっても良いですか?ということで訪問するケースや、各都道府県の再生支援協議会、また県の事業として商工会議所などから紹介されるケースもあります。
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よく、会社立て直しのためには、まず何をすべきですか、と質問をされます。
当然、宿泊業であれば、トイレの掃除から始まり、お辞儀の角度、料理の見直し、OTAをはじめとした各種ウェブ媒体の見せ方の見直しなど、やるべきことはたくさんあると思います。
しかしながら、私がまず行うのは「資金繰り」の精査です。今後、何か戦略を講じていくにも、どの程度の資金余力があるのか、金融機関との関係性はどのような状況か、などを抑えてからでないと無駄な絵空事の戦略となりかねないからです。
それ以前に、金融機関からは「資金繰りが厳しい先があるから、一度見てきてほしい」と相談されるケースも多々あります。
現在は新型コロナウイルスにより中小企業の経営環境も厳しくなっており、相談が増えていますか、という質問をよく受けますが、実はここ最近までは相談は極端に少なかったのです。それは、保証協会や政府系金融機関が、新型コロナ対策融資を積極的に行い、そのお陰で皆さん一旦は落ち着いていたのです。
その中にはリスケ先(リスケ=リスケジュール。返済条件を緩和してもらっている先)も含まれ、本来追加融資を受けられなかった先まで融資を受けることもできており、むしろコロナ禍前よりも資金繰りは余力ができた、というような話も方々でお聞きしました。
しかしながら、ご想像のとおり経営環境の実態は非常に厳しく、先程の融資も、赤字が続けばいつかは底をつきます。新型コロナ対策融資は返済の据え置き期間を設けられていることが多く、それら返済が、この夏ごろから徐々にスタートする会社が多く、各金融機関からは追加融資の算段もないため、今春から徐々に相談が増え始めているのが実情です。この夏過ぎごろからは、現実的に資金ショートを起こしてしまう中小企業は潜在的に多く、刻一刻と打てる手立ては減っていってしまいます。資金繰り対策は、時間の経過とともに、策がどんどん減ってしまうのが一般的です。あと数か月早く動いていたら…という会社に嫌というほど出会ってきました。今のうちから手立てが必要です。
このように、経営環境の変化にとっても「資金繰り」を考えるのは非常に重要であり、その資金繰りを考えるうえで、金融機関との付き合い方は非常に重要なのは、皆様が一番ご存じかと思います。
渡邉安洋さん=みらい経営シニアパートナー兼アットインホテル事業部の取締役、みらいホールディングス新規事業企画および特命プロジェクトへの参画なども兼務。中小企業再生支援協議会案件、RCC(整理回収機構)案件、地方銀行案件等、事業再生に従事している。1981年1月生まれ、愛知県出身。
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