金融機関と上手に付き合うために シリーズ「旅館ホテルの事業再生」(1-3) 数字でリスクを含めて伝える
宿泊業は、サービス業の最高峰とも言われ、お客様に満足を与える商売。古びたところは直し、飽きさせないよう時代のニーズに合わせてリニューアルを行う。逆にそれができなければ、負のスパイラルに陥ってしまいます。金融機関との良好な関係は、宿泊業の経営にとって生命線とも呼べるかもしれません。
地方で負のスパイラルに陥っている例では、団体旅行向けに「大宴会場」「カラオケ」「和室」といった当時のゴールデンセットを備え、仲居さんをはじめとした、その館に合う人員を配置。当時はそれらが正解の方程式でしたが、バブル経済崩壊後、社員旅行、懇親旅行、各種団体旅行が減少していき、小団体、個人客がメインとなり、本来はそのタイミングで需要にアジャストすべく個人客にフォーカスした館内づくり、客室露天風呂などに再投資が必要でしたが、金融機関からリニューアル資金を調達できないため、何も手を打てずライバル会社や大手チェーンに顧客を奪われてしまった、というケースは多いのではないでしょうか。
それどころか日々の返済にも困っている中で、リニューアルの話などできるわけもなく、金融機関にリニューアル融資の相談すらしたこともないケースもあるのではないでしょうか。ただ、それではいつまでたっても負のスパイラルから抜け出すことはできません。確かに、金融検査マニュアル下では過去の財務内容が大きく影響し、資金ニーズがあったとしても何ともならないケースが多かったのは事実です。しかし不良債権処理も一区切りを終え、実は先述した「金融検査マニュアル」は2019年末に実質的に撤廃され、金融機関の目利き(事業性評価)による融資を求められる時代となりました。
言い換えれば、会社側は「上手く伝える力」が重要となってきました。以前のように、毎月試算表を提出する(そもそも試算表ができるのが数カ月後。毎月提出すらしていない会社も多いですが)だけでは、会社の実情が伝わりません。何も立派な報告資料をつくるだけが正解ではありません。自身の言葉で、伝わることが重要です。ただし、金融機関はまだまだ書面での報告が多い文化です。そのため、上席に上手く伝えてもらうためにも書面で月次報告を出してあげたり、写真などのビジュアルで示してあげるのも有効です(数字で伝えるのも非常に必要ですが、ビジュアルで訴えかけ、イメージを掻き立てるのも重要です)。
宿泊業の社長は、想いを伝えるのは得意ですが、数字に苦手意識のある傾向があるように感じます。金融機関との会話では、数字を交えて話すことが非常に重要です。例えば、どうしても〇〇という設備投資をしたい場合の説得力として、設備投資を行った暁にはこれくらいの売上が見込めるというトップラインを伸ばす話だけではなく、「設備投資をやらなかった場合」、すでにリニューアルを行った他社に売上を取られ、赤字に陥ってしまうなどの投資しなかった場合のリスクまで伝える見せ方も重要です。
またその設備投資でどれくらいの顧客増、単価増を見込めるか、どれくらいの期間での投資回収が見込めるかを伝えるのは必要です(単に貸してくださいというより、こういう使い道があり、このように収益が伸び、その中から返済していけるというのが理解できると金融機関も貸しやすくもなります。当然ですが金融機関も貸した資金が戻ってくる見通しが見込めなければ貸して良いとの判断に至りません)。
※「中小の皆で生き残っていくために、ゆるやかに手をつないでいく」とし、総合案内所をクローズアップした次号に続く。
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