運転手にプロの気概―
ここ数年、観光バスにかかわる事故は飲酒や過労運転による居眠りで起こるものなどが目立つ。そういったなかで4月11日、静岡県牧之原市の東名高速上り線で走行中の名阪近鉄バスに大型トラックのタイヤが直撃した事故は、亡くなったバスの男性運転手には気の毒だが、プロとしての気概を感じさせてくれるものだった。
バスは事故が起こる前、追い越し車線を走っていた。その際、運転手の足はアクセルを踏んでいたと考えるのが普通だろう。そこへタイヤがバスを直撃し、運転手はほぼ即死だったというから、そのままアクセルを踏み続ければバスは横転、大惨事になっていたに違いない。
しかし、この運転手はブレーキを踏み、サイドブレーキに手をかけたまま倒れていたという。バスを止めることに身体が反射的に動いたからこそ、乗客も無事だったのではないかと、県警高速隊の担当者が話していたらしい。
名阪近鉄バスの幹部によると、この運転手は勤続25年のベテランで、これまで無事故無違反で、48人の運転手のうち3人しか資格を持っていない師範運転手だった。誰にでもきさくに声をかける人だったという。
「大切な人材を亡くしました」とその幹部は語っていたが、大型車のタイヤ脱落事故は昨年1年間で41件も起きている。今回の事故は決して他人事ではない。バスツアーは常に危険と隣り合わせで行われているというわけだ。今回のようなケースに対して危険予知運転などできるわけがないが、安全・安心のツアーを祈るばかりだ。
(トラベルニュースat 08年4月25日号)