眉間の皺は視野の狭さ
ある旅館の案内所の所長から顔を覗き込まれ、「あきませんなあ、眉間に一本きれいに皺が寄ってますがな」と言われた。意味もわからないまま話を聞いていると、エッセイストで映画監督だった伊丹十三さんの「再び女たちよ!」(新潮文庫)という本の中に「眉間の皺」というコラムがあって、「眉間に皺が寄っている顔はよくない」と書いてあるんですよ、とさらに追い討ちをかけられた。
家の本棚にこの本があったことを思い出し、家に戻ってページをめくると「眉間の縦皺は、怒り、悲しみ、嫌悪の表現に他ならぬ。つまり、私は四六時中、周囲に向かって、怒りと悲しみ、嫌悪の情を発散していることになるわけで、これでは人に好かれようがないのである」と、伊丹さん自身も人相学で眉間の皺を指摘されていることを告白している。
さらに伊丹さんは居合い抜きの達人に弟子入りする際、「おまえの顔は駄目だ」と一刀両断にされ、こう言われる。「お前みたいに。こうやって眉に皺を寄せていると、目の周りに筋肉が凝り固まって、実際に視野が狭くなるだろう。皺を寄せるのをやめて、顔を伸ばしてみろよ。世間が広く見えるから」。
確かに、ワザと眉間に皺を寄せてみると視界は悪くなり、目の周りを広げると視野は広くなる。伊丹さんのおっしゃる通りで、案内所の所長が言われた意味もよくわかった。
100年に1度と言われる不況の真っ只中に我々はいる。えてして眉間に皺を寄せてしまいがちだが、だからこそ顔を伸ばし、せめて視野だけは広く持って1年のスタートを切りたい。
(トラベルニュースat 09年1月1日号)