09年は美味しい旅が来る オーベルジュに見る地域のチカラ(2)
中道さんは07年5月、美瑛町にレストラン「美瑛選果・アスペルジュ」をオープンさせた。建物はJAのもので当初、中道さんのレストラン開業に難色を示す農家ばかりだった。賛成は、中道さんを誘った1人の理事のみ。そこで中道さんは一計を講じる。
フランス料理オーナーシェフ・中道博さん 日本交通公社シンポ講演から
「野菜を薄切りにしてみぞれ鍋のしゃぶしゃぶを皆で囲んだんです。反対していた理事が『野菜が美味しいな』と。それで僕は、待っていましたとばかりに『料理ではない、野菜が美味しいレストランにしたい。皆さんの野菜を食べてもらいたいんです』とね」
農家が自分の育てた野菜をほとんど食べていないことが分かったという。自分で美味しいと思わずになぜ売れるのかと思った。
「昔は僕も、形が悪かったり筋張ったトマトを見て『こんなもん使えるか!』って、やってました。だけどトマトに責任はない。素材を生かすことが僕らの仕事なんじゃないかと思うようになった」。だから、中道さんは「北海道に冬に野菜はありません。地産地消は当たり前だけど、ない時はよそものでいい。調理人はいい仕事がしたい。手に入れた素材をどう生かすかだけです」という。
「農家にとって一番大事なのは、自分で作ったものが全部売れることです。それを僕らが保証する。収穫作業が大変だったらコックが朝採りを手伝う。僕らは農家に学び、農家には美味しさの価値観を見出す場を提供しています」
アスペルジュは人気を集め、町のコピーは「美しい美瑛」から「美味しい美瑛」に変わったそうだ。
料理だけでない有意義な時間
各国大統領夫人らが昼食を楽しんだマッカリーナは、札幌から車で約2時間の場所にある。食事に行くというよりも、まさに旅行する感覚だ。
「以前はお客さんに『美味しいですか?』なんて聞いていました。ある時、いつもの調子で客席を回っていると『美味しい、美味しくないは客が決めることだろ。お前がどういう仕事をしているかだけでいいんだ』と言われました」。その時、中道さんは「お客さんは、うちに期待して来てくれる仲間なんだと思いました。あとはこっちが、素材を、自分たちを通していかに感動していただけるかが問われている、と」。
まして、車で2時間かけてまで行く客は「喜びましょう、楽しみましょう」という気持ちで来てくれる。「店だけじゃない、道中からすでにマッカリーナになっているんです」。
それは、田舎の得をしている面だという。便利な都会では、便利さゆえに批判にさらされるが、地方では「お客さんに協力してもらって、気持ちいい仕事ができます」と中道さんは言い切る。
「足りないことが力を持つことはあるんです。お客さんに、いかに有意義な時間を費やしてもらい、次につなげるか。それが正しい事業計画だと僕は考えています」
聞き手を務めた同財団の小林俊英常務理事は「生産者は作る楽しみ、料理人は食の楽しみ、消費者は旅行の楽しみがあり、皆が楽しみを共有している。それが地域を変えるチカラになるんではないでしょうか」「オーベルジュは感性を共有する場です。料理だけではなく、借景を含めた素敵な空間で過ごす時間をトータルで提案しているのです」とまとめた。
(トラベルニュースat 09年1月1日号)
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