スポーツ観光を考える 現場の反応は(2)
今年8月11―18日、USSSA(米国スポーツ協会)の野球チームが来日した。全米の高校生から選抜された18人で、NOMOベースボールクラブやOBC高島など関西のクラブチームと親善試合を行った。
ラウンドトリップ・久保田正義さんに聞く MLBとプロ野球との違い
選抜チームは親善試合のほか、甲子園球場で高校野球を観戦したり、大阪ミナミの商店街や京都市内を観光。保護者や家族も同伴し総勢50人あまりが1週間の日本滞在を楽しんだ。
チームの受け入れや対戦相手をコーディネートしたのが、久保田さんが理事を務めているNPO法人ヒットエンドラン(大阪市住之江区)とラウンドトリップ。
「彼らが日本に来た目的は、若年層の技術レベルが高い理由を学ぶというものでした。フィジカルだけではない、日本の野球に魅力があるということです」。野球そのものの魅力が、彼らの訪日につながった。全米からセレクトされ将来が嘱望されていることもあって家族らも来日し、野球以外の観光も組み入れられることになった。
久保田さんは、スポーツ観光には競技そのものの魅力と発信力が欠かせないと考えている。「例えば中国。中国で野球といえば米国のメジャーリーグ(MLB)です。日本のプロ野球なんて誰も知りません。MLBは中国を潜在的な市場として重視しています。MLB主催で少年野球大会を北京で開催し、普及に取り組んでいるのです。日本のプロ野球はそこまでできていません。用具を寄付している程度でしょうか」。
競技の普及と一体 長期的なビジョンで推進
米国では、イチロー選手の活躍などで日本の野球は知られている。しかし中国では、MLBのように日本からアプローチしないと観戦につながるはずはない。
「MLBは本国でも普及活動に力を入れています。サンフランシスコ・ジャイアンツは、野球を通じて子どもを育成する基金を設けています。現役選手らの寄付で運営し1万人以上の子どもが関わっています。子どもたちを教えるコーチ業などの雇用も生んでいます。つまり、プロチームとしての収益を地域に還元し、未来のジャイアンツ・ファンづくりにもつなげているのです」
久保田さんは、だから日本のプロ野球がダメだと言っているのではない。日本の野球全体のマーケティング戦略が欠けているというのだ。その傾向は、観光庁のいうスポーツ観光にも垣間見える。
「スポーツは様々な効果を生みます。その中から、観光だけを取り出そうとするのは無理。観光だけの視点では、オリンピックやW杯などイベント誘致で終わってしまいます」「そうではなくて、競技の普及、子どもの育成や生涯スポーツの場づくり、そしてそれらに連なる地域の活性化。いろいろなものが重なり組み合わさることによってこそ、スポーツ観光は実現するのではないでしょうか」と久保田さん。
「スポーツ観光の可能性に期待しています」という久保田さんの話を聞いて、スポーツ観光とまちづくりの共通点を思う。100年を超す歴史があるMLBですら、長期的なビジョンでファンの開拓に乗り出している。まちづくりが2―3年で実現しないのと同様、短期的な効果測定でスポーツ観光の是非を論じるのは避けたい。