観光バスが変わる(2) 8月から新高速乗合に
この1年、国は様々な対策を講じてきた。バス会社や旅行会社への監査、運転手の運転時間の基準の見直し、文書の作成・保存など、安全確保への取り組みを旅行業界、貸切バス業界に課した。
ビジネスモデルの転換促す
国土交通省は利用者からの通報窓口を設けた。昨年7月から約100件の通報が寄せられたという。「バスがふらついていた」「スピード違反をしていた」といったものが目立った。また業界団体、地方運輸局にも「夜行バスなのに、運転手が1人しか乗っていない」など様々な指摘が寄せられたそうだ。なかには、同業者とおぼしき通報もあったという。
これは、高速ツアーバスに限らない。バスツアーの最大手、クラブツーリズムには事故直後、お客から「ドライバーは1名か2名なのか?」「どの道を走行するのか?」「どこのバス会社なのか?」などの問い合わせがあったという。最近は沈静化している。
また、別の旅行会社には、ツアーの行程を見て「バス車庫から集合場所までの時間を換算すると、運転手の基準労働時間を超えているのではないか」など専門的な指摘もあったという。
そうした中で高速ツアーバスは、7月末までに新高速乗合バスへの移行が義務化された。
これまでの高速ツアーバスは、旅行商品として旅行会社と利用者が契約し、旅行会社がバスを手配していた。それを乗合バスとすることで、利用者とバス会社が直接契約する形になる。昨年4月の事故で、ツアーバスの催行旅行会社が手配したバスがブローカーなどを経て、催行旅行会社が事故を起こしたバス会社をまったく知らなかった事態が背景にある。
そのため、高速ツアーバス事業を実施してきた旅行会社は新たにバス会社を設立するか、既存バス会社へ事業を委譲し販売代理店として新高速乗合バス事業を継続することになる。新高速乗合バスを運行するバス会社は乗合許可を得て、定時運行やドライバーの確保など、ツアーバスに比べて厳しい運行基準が課せられる。ツアーバス時に問題になった乗降場所についても当然、停留所の設置が義務づけられる。
停留所の賃借料やドライバーの人件費はバス運賃に転嫁される。言ってみれば、適正な運賃ということになるのだが...。
高速ツアーバスを催行していた旅行会社経営者は、今回の移行についてこう話す。「安全・安心はもちろん大切です。だけど一方で、旅行業界、バス業界には構造的な問題があります。旅行会社は1万円の商品を売って1千円少しの儲けに汲々としています。バス会社もしかりです」とし、この問題は薄利多売でやってきたビジネスモデルの転換を促すものだと指摘する。
最盛期には50社以上の旅行会社が高速ツアーバス商品を催行し、改正以降も事業を存続するのは全国で30数社とされる。いずれも前述のように代理店契約を結んだり、新しくバス会社を設立する。一見、安全・安心をフィルターに淘汰されたかのようだが、前出の経営者は「逆に増えるのではないか」と見通す。
「これまで貸切一本でやってきたバス会社にとって、新高速乗合バスは乗合への参入のチャンスかも」。その結果として「移行直後の8月は夏休みだからいいでしょう。しかし閑散期になったらどうなるか。赤字覚悟の会社が出てきてもおかしくない」と危惧する。