高山荘華野 20年越しのスイート誕生
関西の奧座敷、神戸市北区の有馬温泉。下呂(岐阜県)、草津(群馬県)と合わせて日本三大名泉の一つである。赤銅色の「金泉」と無色透明の「銀泉」の2種類あるのも珍しいという。
その有馬温泉の旅館「高山荘 華野」に3月、スイートルーム「双葉葵」がオープンした。日本を代表する数寄屋造りを手掛ける工房として国内で知られている中村外二工務店が工事を担当し、二代目館主が22年間思い抱いていた念願の“作品”なのである。
同館は1956年に創業。5室の木造の宿からはじまり、何回となく改装を重ねてきて現在16室の小規模高品質旅館へと進化してきた。館内には館主自らの手により「なげ入れ」という花器に直接花を入れていく手法を用いた花をあしらい、版画や彫刻などのアート作品を展示、独自の世界観を創り出している。
そうした宿の象徴的な存在が「双葉葵」である。木造の建物「風景館」2階の2室を広さ約88平方メートルの1室に改装した。他の客室と一線を画すように格子戸の内玄関を入るところから始まり、赤杉の絹張りの扉に床はナラ材を使用。前室に入ると、天井は双葉葵の紋様が入った京からかみ貼りというこだわりよう。ちなみにスイートルームの名称はこの唐紙模様に由来する。
和室は赤松の皮つき丸太を床柱に選び、それを基準に部屋の仕様が決まっていった。左官による土壁仕上げに葦と藤蔓で編んだ下地窓、広縁のなぐり仕上げなど職人技が光る仕様になっている。洋室は障子を入れてスイートルーム全体のイメージを統一。ベッドはシモンズ社製のセミダブルのツインベッド、家具はイタリアのカッシーナを中心に配置するなど国内外の高級家具を集めた。
浴室は十和田石を用いた浴槽に銀泉の湯、窓からは春夏秋冬の季節の変化が楽しめるという案配である。隣接する洗面室には天然石のライムストーンのベーシンカウンターにドイツ製の陶器のベーシンボウルを2つ配置しアメニティはイタリアのフェラガモ製という、さすが高級客室である。
中村外二工務店は「大工の技術は材料から」という考えがあり、まずは「材料」選びから入るという。良質な材料を選び、それに合わせて「道具」を使う。そして建築は日を重ねるほどに味わいが増し、本来の価値を発揮する。そういう経験変化を実現するのは「掃除」だという。確かに手入れが行き届いた木造の建物は年々の時の経過が楽しみになるし、価値が増していくようである…
(井村日登美=ホテルジャーナリスト)
(トラベルニュースat 2022年5月25日号)
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