人口減と反比例し乗客増 網地島ライン
前回に続いて島めぐりの船旅についてご紹介します。ほぼ半世紀前、全国的な「離島ブーム」と呼ばれる観光ブームがありました。都会の若者が夏休みなどに大挙して離島にでかけ、長期間滞在する人も多かったのです。しかし、このブームが去った後、島の過疎化は進み、唯一の交通手段である離島航路の維持すら難しくなるところも少なくありません。こうした苦境の中、観光で離島航路を活性化させた、東北の網地島ラインを紹介します。
同社は、宮城県の石巻から、沖合に浮かぶ田代島と網地島の2つの離島と、牡鹿半島の先端の捕鯨の町、鮎川を結ぶ航路に2隻の客船を運航しています。2隻ともに最近新しくなったピカピカの新造船。「マーメイド・」は小型車3台を積載できるカーフェリー、「シーキャット」は26ノットと高速を誇るアルミ合金製の高速船です。
同社が創立された昭和54年時点での2島の人口は2300人あまりで、乗船客数は約8万人でしたが、平成18年には人口が600人余りに激減していました。このような過疎化の中では、航路がジリ貧になることは見えています。
そこで、観光客誘致に力を入れることにしました。しかし、航路補助をだす役所は「離島生活航路として補助しているのに、なぜ観光客誘致なのか」と当初はなかなか賛同が得られなかったといいます。
平成3年の東日本大震災の津波では、全所有船がいち早く沖にでて助かり、被災10日後からは無料で運航再開しました。しかし、震災の影響もあって過疎化はさらに進み、昨年には島内人口は393人にまでなりました。一方、同航路の乗客数は10万人を達成して、ついに新造船の投入が実現しました。この10万人中の島民数は1万4千人あまり。すなわち、観光客需要が86%もの比率を占める観光航路にみごとに衣替えをしたこととなります…
(池田良穂=大阪経済法科大学客員教授)
(トラベルニュースat 2020年11月10日号)
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