遊覧船「カズⅠ」の悲劇 小型客船に「不沈機能」も一考
知床の地で26名の乗客乗員を乗せた遊覧船「カズⅠ」が沈没して、全員が死亡・行方不明になっています。楽しいはずの観光で、死者が出ることは本当に辛いことです。
さて、船の安全規則は、原則として国連の専門機関である国際海事機関で決められています。これは、多くの船は海を越えて外国まで行くので、そこで違う法律が適用されると困るためです。この船の国際規則は、110年前の客船「タイタニック」の海難を契機に作られ、その後、大きな海難が起こるたびに改正がされています。このことから、同規則は血で書かれているとも言われるほどです。
今回の海難を起こした船は国際航海を行う船ではないので国際規則の改定に直接には結びつきませんが、寒い海での海難における救命のあり方を考えさせる機会となりました。体が冷たい水に浸かれば、15分ほどで意識を失い、1時間で死亡するという現実は、救命胴衣や救命浮環はほとんど役立たないことを示しました。19総トンの小さな遊覧船で、救命艇や救命いかだの搭載が難しい場合には、他の方法を考えておく必要がありそうです。
もっとも有効なのが船自体の不沈化です。よく使われる「不沈客船」とか「不沈艦」という言葉は、穴が開いても絶対に沈まないことを意味していませんが、本当の意味での不沈船が小型船では存在します。その一例が大型船に搭載される救命艇です。船内空所区画に、発泡ウレタンなどの浮力体を充填し、穴が開いても沈まないだけの浮力を持たせています。
現在、大型クルーズ客船などではセーフ・リターン・ツー・ポートという要件が課されています。これは、いかなる区画が損傷や浸水しても自力で近くの港まで戻る能力を持つように規定したもので、船自体が救命艇の役割を持つべきという思想です。冷水域で運航する小型客船に不沈機能を持たせれば、今回の海難のような場合にも、海上に浮いて救助を待つことができます…
(池田良穂=大阪府立大学名誉教授・客員教授)
(トラベルニュースat 2022年6月10日号)
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