等級あるクルーズ船の登場
1960年代末にアメリカで発祥して巨大なレジャー産業に成長した現代クルーズは、一般大衆をメインターゲットしており、クルーズ期間は1週間以内と短く、料金は陸上のレジャーに比べても安くリーズナブルで、船も大きいので船酔いの心配もありません。そして船内は等級差のないモノクラスで、料金の差は使用する部屋の大きさの違いだけです。
こうした大衆向けの船には合わない富裕層向けに開発されたのが、4千―8千総トンで旅客定員は100―200名の小型のラグジュアリー船で、ブティッククルーズ客船と呼ばれました。船員の数は旅客数とほぼ同じで、まさにマンツーマンの濃密なサービスが売り物です。船が小さいのはマーケット自体がニッチ、すなわち小さかったためです。このブティッククルーズ客船は、小型ゆえに船内イベントの多様性がなく、船酔い問題もありました。そのため次第に大型化され、今では5万総トン級船まで現われ、旅客定員も500名くらいにまで増えています。クルーズ料金は1泊あたり10万円前後からです。
最近になって、このモノクラスから脱皮するクルーズが登場しています。最初に大型カジュアルクルーズ客船の一画を上級客区画としたのは、スイス資本のMSCクルーズで、この区画をヨットクラブと名付けました。定員は100名前後であり、同社の運航する14万総トン級以上の大型船に設けて好評を得ました。
さて筆者は、同社の17万総トン級の「MSCベリッシマ」の日本発着クルーズで、ヨットクラブを体験する機会に恵まれました。横浜港で乗船した時には、ターミナルの受付にバトラーが現われて部屋まで案内してくれました。
区画内には専用のレストラン、展望ラウンジ、サンデッキとプールがあります。区画の入口のドアはヨットクラブ客のキャビンカードがなければ開きません。ヨットクラブの乗客は、このドアから自由に一般区画に行くことができます。これはちょうど高級宿に宿泊して、周辺の街を散策するのに似ています。アーケードにはいろいろ個性的な店が並び、スパでマッサージを受けたり、ファストフード店での食べ歩きもでき、大きな劇場での観劇も楽しめます。これは小型のブティック客船では味わえない楽しさです。
一方、運航会社としてメリットも少なくありません…
(池田良穂=大阪府立大学名誉教授・客員教授)
(トラベルニュースat 2024年2月10日号)
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