寄港地潤すクルーズの経済効果
連休中の5月5日に大阪港の天保山客船ターミナルのオープニングセレモニーが開かれました。この式典の中で、15分ほどのクルーズに関する講演をする機会に恵まれ、クルーズの経済効果についてもお話ししました。
当日は、9万総トンの大型クルーズ客船「セレブリティ・ミレニアム」が寄港しており、天保山の岸壁周辺の海遊館、マーケットプレース、大観覧車には、同船の乗船客だけでなく、多くの市民で賑わっていました。
世界の多くの港では、クルーズ客船の着く岸壁から市街地までは距離がある場合が多くなっています。特に、クルーズ客船が大型化したことから、市街地に近い岸壁には着岸できなくなり、遠くに着くことが多くなりました。寄港地観光としては観光バスでのオプショナルツアーが一般的になっていますが、それに参加しない乗客は市街地までの移動をアクセスバスやタクシーに頼らざるを得ません。
しかし、大阪港の天保山の場合には、下船するとすぐ近くに観光スポットや商業施設があり、徒歩圏内に市街地も広がっています。さらに地下鉄の駅も近く、大阪の中心街にも公共交通機関が利用できます。この立地の良さは、経済効果に直結しています。
観光庁の観光客消費調査によれば、訪日観光客の1人1泊あたりの消費額が約2万円なのに対して、クルーズ客は約2万9千円となっているといいます。クルーズ客は、基本的に宿泊費がない日帰り観光客とみなせるので、その主な消費は、食事、買物、観光です。中国発着のクルーズ客船では、オプショナルツアーの参加者が多いですが、欧米や日本の乗客の5―8割は、個人で寄港地観光を楽しみます。中には下船せずに船内で過ごす人も少なくありませんが、こうした人も岸壁の近くに見学できる観光スポットや商業地があれば、散歩をしながら消費もしてくれます。
クルーズの乗客だけでなく、乗組員も寄港中に休み時間が取れれば上陸して楽しむ人も少なくありません。港に設置されたWi―Fiを使って家族に電話をする姿をよく見ますし、家族へのお土産を寄港地で買う乗組員も多いのです。
昨年、欧州のクルーズ客船の中で仲良くなった乗組員は、何度も日本の港に寄港して観光や家族へのお土産を買ったと楽しそうに語ってくれました…
(池田良穂=大阪府立大学名誉教授・客員教授)
(トラベルニュースat 2024年5月10日号)
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