急増する小型豪華客船
最近、クルーズの分野では、旅客定員が100―200名程度の小型のクルーズ客船が増えています。小定員になると運航コストが上がってクルーズ料金は高くなります。現在は、1泊当たり10万円前後からが多く、高い船だと1泊40万円からという船もあります。
半世紀以上前、民間航空機網がまだ発達していなかったころ、太平洋や大西洋には豪華客船と呼ばれる大型の高速定期客船が運航されていました。その豪華な1等のイメージがクルーズにはつきまとい「豪華船」というキャッチフレーズが浸透していました。1960年代にカリブ海で登場した現代クルーズは、この豪華船のイメージを一部では残したまま、クルーズというレジャーを一般大衆にまでターゲットを広げました。乗客一人当たりのコストを削減し、かつ船上で多様な嗜好をもつ人々の満足感を高めるために、船はどんどん大型化し、定期客船時代の最大船の3倍もの大きさの25万総トンという巨大クルーズ客船が続々と登場しています。建造費は1300億円を下りませんが、十分に短期間で採算がとれています。
では、定期客船時代の1等客クラスのラグジュアリー客はどこにいったのでしょうか。ずいぶん前のことですが、このことをアメリカで現代クルーズの事業者に聞いてみると「そうした富豪は自分で豪華ヨットを持っているのでクルーズ客船には乗ってこない」とのことでした。確かに欧米の港に行くと大型の個人用モーターヨットが舳先を並べて停泊しています。
こうしたラグジュアリー客が対象の商業クルーズのための小型クルーズ客船を提案したのはフィンランドのバルチィラ造船所でした。同社は大型のカジュアル船の開発・研究で有名でしたが、常に種々のタイプのクルーズ客船を提案して実現しており、この小型クルーズ客船もその一つでした。
その最初が、1984年に建造された4300総トンの「シー・ゴッデス」姉妹です。旅客定員は116名。乗組員は95名と、ほぼマンツーマンの高質なサービスが受けられ、プライベートヨットのようなクルーズが楽しめるのが売りでした。この姉妹を皮切りに、十数隻が建造され、ブティッククルーズ客船と呼ばれました。しかし、船が小さくてよく揺れて乗り心地が悪いこと、クルーズ料金が高いこと、船内での催し物のバラエティがないことなどから、そのマーケットは大きく広がることはありませんでした…
(池田良穂=大阪府立大学名誉教授・客員教授)
(トラベルニュースat 2024年11月10日号)
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