旅する講談コラム

講釈師が語る円山応挙その七 幽霊の画で甚兵衛の店賑わう
「じいさん、一本つけてんか?」「あぁおいでやす、どうぞ奥へ」「あぁどうもじいさんとこもなぁ。ここんところ御無沙汰してしもうたけども、何やこの店えらい陰気になってしもうたな。あぁおおきに。それからなんぞつまむモンも持って来てんか。あの海老芋と...

講釈師が語る円山応挙その六 思わず生まれた足がない幽霊
散々に迷った挙句。思い切って人の気を引く絵を描いてみようというので、得意の幽霊画を描くことにいたします。夜になるのを待ち受けてまして、わざと行燈の火も薄暗くして筆をとり始め、ふと思い出しましたのが、かつて長崎の巴楼で描いた髪をおどろに振り乱...

講釈師が語る円山応挙その五 馴染みの居酒屋であの科白…
「西国九州の方まで足を延ばしておりました。京へ帰ってくるとここで一杯やらんことは戻って来た気がせん。一杯つけてんか?」「あのなぁ。それが先生の前やけども、今日はもうおまへんねん」「え?もう店終い? えらい繁盛してるんやな」「いいええな。そや...

講釈師が語る円山応挙その四 太夫に石塔建て、唐錦を手に…
「いやいや、そうやない。ちょっと気になることがおましてな。小さな行燈部屋。そこに病人が一人」「お客様でございました。まぁ良いことをして下さいました。紫さんも本当に喜んでおりました。それが可哀想にあの子は夕べ息を引き取ったんでございます」「え...

講釈師が語る円山応挙その三 見たことのない太夫が現れる
「礼を言われるのも恥ずかしい。ええか?病は気からと言うてな、気を確かに持って居たら体も丈夫になるもんや。それから今度は私の頼みや。まぁ頼みと言うよりも、お前さんの身寄りを見つける手立てにもなることなんやが、ちょっとお前さんの絵を描かせてもら...

講釈師が語る円山応挙その二 紫、形見の「唐錦の匂袋」出す
「私が全盛のころには、米つきバッタのようにぺこぺこと頭を下げて、こちらに何かと気を遣ってくれましたが、この通り私が病に罹ってからというものは『早う死ね、死んでしまえ』とばかりに、医者はおろか、薬すら飲ましてもろうた覚えはございません」「不憫...

講釈師が語る円山応挙その一 飲み過ぎて夜中に目を覚ますと
江戸後期写実派の絵師と言うより、幽霊画の絵師として有名な円山応挙。元は京都の生まれで、若い時分から絵道具一式を持ち日本六十余州を渡り歩きながら修行の日々。丁度九州の長崎へ立ち寄った折、ご贔屓の案内で円山遊郭の巴楼で遊ぶことになります。大体お...

講釈師が語る荒川十太夫最終回 武庸の忠義が他の者の徳になる
荒川十太夫は緩やかに首を差し出しますと松平隠岐守が刀で以って勢いよく振り下す、血煙上げ荒川十太夫は「ドサリ」と倒れ辺り一面唐紅となるかと思いきや、一寸手前で刃を止め、微笑みながら鞘へと納めます。 「先程の一刀で嘘偽りを申した不忠者を成...

講釈師が語る荒川十太夫その六 瞑目合掌、型の如く立派な最期…
御検視の御歴々、威儀を正して控えておりまする処へ白き衣類に無紋の裃、ゆったりと座に直された安兵衛殿はあくまでも剛担、死をみる事帰するが如くの武士(もののふ)運ばれましたる九寸五分の短刀を取り上げ、じっと見つめることしばらく、静かに某を顧みて...

講釈師が語る荒川十太夫その五 松平の殿様に「先ずは…」と話す
平生は後ろ姿も拝めぬ位の上つ方が、今目の前においでになるので、大抵の者が慌てふためいて「へぇへぇ!」額を擦り付けるほどの平身低頭、右の者はカレイの如く、左の者はヒラメの如し、真ん中の者はマンタの如く、中には勢い余って、そのまま三点倒立に及ん...