講釈師が語る一休さんの五 周建、仏に背を向けて座禅
ある晩の事、周建は像外和尚から、仏前のお灯明を消すように言われました。そこで周建、ぴょんと飛び上がって、口でぷうと吹き消して戻って参りました。
「確かに消してまいりました」「それはご苦労であった。周建どのように消してきたのじゃ」「はい、飛び上がって、口でぷうと吹き消しました」「ふーん、周建、その消し方はいかんぞ」「それは何故で」「人間の息というものは穢れておるものじゃから、その息を仏様にかけてはいけないのだ。これからは、手の平または扇子で、あおいで消すのじゃ、気をつけなさい。良いかな?」「はい、和尚様」
明くる朝は、本堂で像外和尚がご本尊に向かって座禅を組み、これにならって小坊主も後ろで座禅を組んでおりました時に、その小坊主がくすくす笑っておりますから、像外和尚が前を向きながら「ふざけてはイカン、真剣に座禅をしなければ、優れた出家にはなれんぞ、何を笑っているのか? うん、まだ笑い声が収まらんな、何をそんなに笑っておるのじゃ」と和尚が振り返ってみると、周建だけが、後ろ向きになって座禅を組んでおります。
「これ周建、何故、後ろを向いて座禅を組むのじゃ、ちゃんとご本尊に向かって座禅をしなければならんではないか」「でも私は和尚様のお言葉を守っているだけであります」「何じゃと?」…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2020年6月10日号)
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