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講釈師が語る一休さんの九 将軍の面前で戒律を破る

三代将軍足利義満公が昼食の支度を家来にさせます。御膳が像外和尚と弟子の周建前にズラーっと並べられるから将軍は

「さぁ、両名とも遠慮なく過ごせ」「ありがとうございます。うわぁ…えらい昼食じゃ。戒律を破る食べ物ばかり、口にするわけにはいかん。なれども、このままでは将軍に対して無礼となる、仕方がない」

とお箸を持ち上げ料理を食べたフリを致します。「誠に美味しく頂戴いたしました」とお箸を置きます。何とはなしに周建を見ればすっかり食べておりましたので。「お主は食べたのか?」「和尚様こんなに美味しい料理は食べたことがございません」「何と言う事を…仏に仕える我らが頂戴できるはずはなかろう」「ええ? ですが、折角支度して頂きましたのに勿体のう御座います」「えらい小僧じゃ」

そこへ三代将軍が

「周建よ、美味かったか」「はい、お殿様、大変に美味しゅう御座いました」「さりながら、汝は魚肉を食したな。師である像外は手を付けようとせなんだが何故、五戒を破り口にしたのじゃ」「将軍より賜った料理を頂かないとあっては却って無礼となります」「如何に言い訳をしようとも実は今の料理はそちを試したのじゃ」「はぁ。しからば真実を申し上げます。私は決して食べたのでありません。ただ魚肉が私の腹へ入りましたので、私の喉は鎌倉街道で腹の中は天下の往来、魚屋も通れば米屋も通る餅屋も通れば菓子屋も通りますので、只今は魚屋が通りましたので」「ならば、お主の腹は天下の往来で、喉は鎌倉街道と申すのか」「御意でございます」「では、其の街道は農・工・商ばかりが通る道ではあるまい。武家も折々通行するであろうな」「左様で。無論通りますな」「しからば、天下の往来へこの『武士』を余の面前において、鎌倉街道へ通してみよ」…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2020年11月10日号)

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