講釈師が語る一休さん十三 西今寺の謙翁和尚と出会う
将軍家の茶碗騒動以降、周建が塞ぎ込む様になり、「平生から偉そうな事を言う師匠や、将軍は斯様な小手先の事で得心するのか? それ以上に、小手先で何とか誤魔化そうと甘んじている己が一番に許せない、今のままでは悟れない。更に厳しい修業をしなければならない」と固く決意する。
やがて五年の月日が流れた或る日の事。同じ寺の法弟、仏教における弟弟子の様な者、鉄梅と像外和尚の用事で出掛けていた折、鴨川のある橋の袂まで来ると、人集(ひとだか)りがあって皆合掌している中に一人の僧侶。髪は伸び、衣類は破れ、誠に粗末な身なりをしているが、飢え死にした母子の乞食を哀れみ、弔っていた、その姿に周建は釘付けになった、すると隣にいた鉄梅が
「あれは、西今寺の謙翁(けんおう)和尚ですな」「西今寺の謙翁和尚?」「ご存知ありませんか、あのお方は妙心寺の三世、無因禅師から左券を授かる筈だったんですが、それを謙遜してお受けしなかったのです、それで謙翁と呼ばれております、正式の道号は為謙、名は宗為と呼ばれております」「え?左券を受け取らなかった?」
…分かり易くとお伝えすると、左券とは仏法における免許皆伝の認定書の事です。これさえあったら大きな顔が出来る。受け取らない事が信じられない時代です。また当時の臨済宗には、大別して二つの勢力がありました。専門的な事は省いて、一つは権力に近付いた一派と、権力から離れた一派です…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2021年4月10日号)
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