講釈師が語る一休さんの十四 謙翁和尚「我の利」を説く
周建は謙翁和尚の弟子になろうと西今寺を探しますが、さっぱり分かりませんので、往来の者に
「ここら辺りで西今寺というお寺をご存知ないですか?」「西今寺?聞いた事がないなぁ」「謙翁和尚という御住持様です」「さぁ。せや。ここ真っ直ぐ行った所に随分古い住まいがポツンとありまして、其処に住んでるじいさんが物知りやさかいに、聞いたら、なんぞ分るんとちゃいますか?」
周建言われた通りにやってくると、草臥れた家屋がポツンとありましたので「少々、お尋ね致します」「はいはい。何じゃな?」「この辺りに西今寺というお寺の謙翁和尚をご存知ないですか?」「あぁ。それは此処じゃ。また謙翁とはワシじゃ」「ええ!貴方様が?これがお寺? 草が生え放題で門や屋根もありませんが」「ははは。それは此の寺が貧しいだけじゃ。何の蓄えもありませんでな。そんなワシに何ぞ用がありますかな?」
「謙翁和尚、私はかつては安国寺で修行をしておりました周建と申します。どうか私を弟子にして下さい。今の五山・十刹が失うた禅の心を謙翁和尚の許で学びとう存じます」「…そうか弟子にしよう。お前さんの様な者が何人も来ていたが、長くて十日、短くて半日、耐えられるかな」「耐えます」「では早速ワシの弟子ならば、新たな名前を授けたいが。腹が減っておってのう、近頃はまともな物を食べておらん。托鉢へ参れ」
ごろりと横になる。周建は托鉢へ参りますと、其の日は何とか食べ物にありつけることができましたが、水しか飲めない日も度々ありました…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2021年5月10日号)
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