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講釈師が語る一休さんの二十二 近江・守山で「雷様」と対峙する

遂に悟りを開いた一休禅師、墨衣に破れ笠、腰には清めの酒が入った瓢箪を携え、空を流れる雲のように所を定めずに、諸国流浪の旅に出立いたします。丁度、近江の国は守山(もりやま)に差し掛かった折、其処に住まいする、百姓が皆、悄然として野良仕事をしております。

「はてな。妙な具合じゃ。これお百姓」「へぇ、これはお坊様、何ぞおましたか?」「ここは一体何所じゃ」「ここは、守山でやす」「守山で野洲(やす)とはこれ如何に?」「けったいな、坊さんやな。守山でございます」「ちと物を尋ねるぞ、噂によれば、ここに住まう者は皆陽気で、随分賑やかな土地柄と聞いておったが、皆一様にえらく塞ぎ込んでおるな。ここら辺りは米の産地、また山の中を通る道があるために、いつしか中山道(なかせんどう)と呼ばれるようになった街道の要。人通りも多いと聞いておったが様子がえらく変わっておるな」「やっぱり旅の方でもそう思われますか? お坊様に言うた所でどうしようもございませんが、実は近頃、雲の上の雷様が雷ばっかり落として、悪さをして困っております。いつ雷を落とされるかと思うて、皆びくびくしております。野良仕事も皆捗りませんので」「そうか、なるほどな。雷様が」

と暫し考えた後一休禅師は大きくを息を吸い込んで、「守山の雷よ〜雷よ〜降りて参れ」と大音をあげました。

やや暫くして空が一点黒く掻き曇り、ゴロゴロ〜ピカ〜真昼のような稲光を放ちながら、それへ現れたのが、八尺はあろうと大きな身体、釘の如く真っ黒な髪の毛、紅蓮の炎を思わせるような肌の色、所謂鬼のような姿かたちで、重々しい撥と太鼓を背に…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2022年3月10日号)

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