講釈師が語る一休さんの二十五 しゃれこうべを吊って桔梗屋へ
法事も心を込めて済ませます、後には御馳走をばお膳に載せて一休禅師の前へ。
「一休禅師、此の度は何とお礼を申して良いやら、さぁお召し上がり下され」「ありがとうございます」
一休禅師は袈裟衣を脱いで、今まで座っておりました、座布団の上に置いて、己は横に褌一本の裸でちょこんと座っております。
「へ?一休禅師何をしてますので?」「以前にご先祖様の法事あった折、門前に小汚い僧侶がおったのを覚えておるかな」「へ?確かにそんな事おましたな」「あれは、ワシじゃ?」「へ?そやけど偉い恰好がちがいますが」「その恰好しかお前さんは見ておらんようじゃ、同じ一休であるが、立派な袈裟を身に付けて居る時には、斯様な持て成しを致し、身なりが貧しい時は追い払う。つまり坊主ではなく、立派な袈裟衣を尊いと思っているから、こうして衣に捧げております」
と言って、一つも手を付けずに帰ってしまったという。
いよいよ、蜷川新右衛門とともに諸国漫遊に出立いたさんと身支度を整えた。年が明けた正月、京都の町にはいずれも門松、注連飾り、和気あいあいとしております。大体七五三(しめ)というのは天神七代、地神五代、いわゆる天地人三代を象ったもので三が日の間は雑煮を祝い、屠蘇酒を出すなど目出度いん物で持ち切っております。
すると此の日は朝から一休禅師、竹の先にしゃれこうべを吊って、目出度い目出度いと京都の町中を歩いております。丁度差し掛かってまいりましたのが、かねてからの馴染みの桔梗屋。店の者は皆朝の膳に付き、続いて女房から番頭、手代、丁稚が皆そろって屠蘇を祝い、これから雑煮を食べようとする時にずーっと一休が入ってきた…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2022年6月10日号)
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