講釈師が語る一休さんの最終回 禅師、床の中で辞世の歌を詠む
「闇の夜に 鳴かぬ烏の 声聞けば 生まれぬ先の 父ぞ恋しき」この歌を地獄太夫に託しましたが、この後思い悩み、どっと患い付いてしまいます。
と言うのも一休、出会った時に地獄太夫の寿命が尽きかけているのを見抜いておりました。そんなある日のこと「一休禅師は、いらっしゃいますか?手前は鍵屋の使いもんですが、地獄太夫がえらいことになりました。今日明日とも分からんような容体となっております。禅師に引導を渡して頂きたいのとことで御座います」「矢張りそうなったか。相分かり申した」
これから急いで鍵屋へやって来ると、地獄太夫は横たわり既に、骨と皮ばかりで御座います。
「一休様、あの歌は、一体?」「あれか?闇の夜に 鳴かぬ烏の声聞けば―とはお経のことじゃ。経巻は山と積まれておってもその教えに気が付かぬ、生まれぬ先の父とは、そうした教えを説く釈迦のことじゃ」「やはり左様で御座いましたか。お陰で死ぬことが怖いと思うことなく過ごせます」「地獄の迷いも晴れたようじゃな」「はい。禅師ありがとうございます。最期の歌をお聞きくださいまし。我死なば 焼くな埋むな 野にすてて 痩せたる犬の 腹を肥やせよ」「見事である。ならばワシも手向けの歌を『仮きおきし 五つのものを 四つ返し 本来空に 今ぞもとづく』」。地水火風空の中で、空以外を返して、元に戻ります。※葬式の葬と言う文字は皆が死体を担いで草むらへ放り込む意味
「ありがとうございます。禅師に引導を渡して貰えればこれ以上の幸せは御座いませぬ」と息を引き取りました…
(旭堂南龍=講談師)
(トラベルニュースat 2023年7月10日号)
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