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講釈師が語る荒川十太夫その一 赤穂浪士への墓参が絶えぬ泉岳寺

宝永二年(一七〇五年)如月の四日は赤穂義士四十七士の三回忌。此の日は見事な日本晴、江戸の芝高輪万松山泉岳寺は、朝から義士の親類縁者は言うまでもなく、この義党にあやかろうという老若男女が途切れる事なく詰め掛け、境内は人で埋まるような雑踏。

常日頃より赤穂浪士の墓参が絶えませんから、どうしても香華、お花や線香が欠かせません。利に聡いは商人の常「花は枯れるかも知れんが、線香はそんな気遣いはない、これは門前で線香を売ったら儲かるかもしれん?」と線香を買い占めて屋台で売り出すとこれが大当たり。この日を境に毎日線香の商い。これが売れに売れて評判が評判を呼んで、現在の『毎日香』になって行くと言う、これがホンマの『センコウ投資』と申します。

参詣者もまばらになった七つ(只今の午後四時頃)泉岳寺門前に供を連れた人品卑しからぬ相当な身分と思しき一人の武士。これ何誰あろう、伊予松山十五万石松平隠岐守(定直)がお目付役を務める杉田五左衛門。清廉潔白を専らと致し曲った事を許さない真っ直ぐな男、それ故道も真っ直ぐにしか歩きませんから曲がる時には悔し涙に暮れながら曲ったという位、たいへん真面目な男。

先年、赤穂浪士が敵討ち、泉岳寺へ引き上げの折、御公儀の命によって、それぞれが毛利、細川、水野、松平という(四家の)大名に預けられました。

その後、松平家においては大石主税、堀部安兵衛、中村勘助、菅野半之丞、不破数右衛門、千馬三郎兵衛、木村岡右衛門、岡野金右衛門、貝賀弥左衛門、大高源吾の十名の者が翌年二月四日に切腹…

(旭堂南龍=講談師)

(トラベルニュースat 2023年9月10日号)

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